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仮面ライダーW 第47話 スポンサーから一言

若菜姉さんを見つけて、救ってほしい――。
<ミュージアム>の崩壊。瓦解した園咲の屋敷の中で、しかし、若菜の死体は見つかりませんでした。
彼女と意識をシンクロさせることができるフィリップは、今もどこかに生きているはずだと確信し、家族として取り戻そうと考えます。ということで、今回はフィリップが鳴海探偵事務所の依頼人となりました。
引き受けてもらえるだろうかと切り出すフィリップに対し、水くさい、あたりまえだとあっさりその依頼を受ける翔太郎。
相棒の依頼、もしくは探偵本人の個人的な事件が掉尾を飾るのはシリーズ物のミステリの基本、定番でもあります。さらにはビギンズナイトの依頼人――翔太郎最初の依頼人――がシュラウドであったと判明し、なお続く園咲家との因縁を、思い知らされる展開。ああ、いよいよWともお別れかとしみじみします。


Dublin Street Art (Already Being Modified) / infomatique


調査に入れば早々に思ってもみなかった事実が明かされ、切なく盛り上がる前半ドラマパート。翔太郎、フィリップを中心に、心揺れる冴子様、懐の深さを見せる亜樹子、さりげなく事務所の面々との心の絆を示す竜。見応えがあります。
ただ中盤以降のアクションシーンは、やや冗長でテンポが悪いように感じました。
変身してくれと懇願するフィリップの前でどうしてもその望み通りにできない翔太郎。その間独りぼろぼろに叩きのめされる竜/アクセル。2人で1人を逆手に取ったこの絶体絶命の状況は普通ならば盛り上がる演出だったのですが、似た構図の危機が直前のエピソードでもあった(45・46話のテラーの精神攻撃に打ちのめされ恐怖で変身できない翔太郎)ばかりだったため、どうしても、繰り返しがくどく感じられてしまったのです。
文句をつけるのはその点のみ。ドラマは緊迫感溢れ、次回の涙涙の締めくくりへ、一気に雪崩れ込んでいきます。
奪還

鳴海探偵事務所。

(らいと……来人……)

何の前触れもなく、若菜の意識が目覚めたことに、シンクロするフィリップ。はっとしますが、しかし彼女の位置がわかるほどではありません。猫の鳴き声に我に返れば、目の前には愛らしいブリティッシュショートヘアー。
「……ミック?」
「にゃぁん。はっはっは、どうだフィリップ!」その正面に座る翔太郎が、得意気に足を高々と組み、顎を撫でています。「おれ得意の猫探しの技は! 取り敢えずミックだけだが、お前の家族を取り戻してきたぜ」
抱き取って微笑むフィリップ。
「さっすが翔太郎くん! 人間相手はいまいちだけど、ペットは強いわー!」持ち上げて落とす亜樹子に
「なんだと~?」と凄む翔太郎。
「ありがとう。翔太郎、あきちゃん」
礼を言うフィリップの笑顔はどちらかと言うと泣き出しそうにも見えます。愛おしげにミックの背を撫でながら、その手が指先から、緑色のデータに分解されそうになることに、気づくフィリップ。笑顔で頷く翔太郎らの前から、慌てて手を隠します。

平成ライダーでは登場人物の存在が消滅する前兆としてよく、指先が光の粒子になったり灰か砂のようになって崩れたりするときに、同じ効果音(個人的に“シュワシュワ”と呼んでいます)が使われる気がします。不吉な描写。

「ん? どした」その手には気づかなかったでしょうが、フィリップの表情の変化には気づいた翔太郎。かれに向かい、フィリップは不安げな顔のままで切り出します。
「翔太郎。頼みたいことがあるんだ」
「なんだよ急に。他人行儀な」
「……若菜姉さんを探して、助けだしてほしい」
「でも、若菜姫は、」言いかける亜樹子の脳裏には、園咲家の敷地一体の崩落や火を吹いて瓦解した豪奢な邸宅の様子が浮かんでいます。
「生きてる!」立ち上がり、遮るフィリップ。「引き受けてもらえないだろうか……姉さんのことを」
すがるような目で向き直るフィリップに、思わず自分も立ち上がる翔太郎。
「もちろん引き受けるさ。若菜姫は必ずおれが助け出す」
「どんなにつらいことが、待っているとしても、かい?」
「お前のために耐えられんねえことなんかねえわ……相棒」
男前にも程があるその言葉を亜樹子が冷やかし、翔太郎が応え、フィリップが笑う。いつもの調子に戻る鳴海探偵事務所。その絵にかぶさるのは沈鬱なモノローグ。

これが、フィリップの最初で最後の依頼だった。
ずっと二人で一人のつもりだったおれたちが、あんなことになるなんて、思いもしなかったよ。
…………なあ、……フィリップ。


思惑

OP明けは化学工場の前に立つ白い服の男女。
「Charming Raven inc. 」女のほうがその社名を読み上げます。製薬工場にしては変な名前です。どうでもいいことですがわたしは録画を見返すまで、ここを化粧品会社だと思い込んでいました。「――表向きは製薬工場。メモリ開発に必要な機材も、無理なく揃えられる」
後ろに立つ白い服の男は、加頭です。
怪しげなその屋内に入り、歩き続けながら、ストップウォッチのボタンを押す女。

「時間がないから簡潔に言うわ。加頭。我が財団Xの投資対象から、<ミュージアム>を外した。また新たな投資対象の模索が必要ね?」

手元のタブレットを操作すると、「A to Z」にも登場した<ネヴァー>に関する資料が表示されます。
「不死兵士、<ネヴァー>。これも面白い実験兵器だったけど、やはり投資を打ち切られた」足を止め、何らかの製造過程を高所から眺め下ろす女。その次にタブレットに表示されたのは、<メダル>。
「……局長」後に続きながら、口を挟む加頭。「<ミュージアム>は滅びていません。わたしが確保した切札で、ガイアインパクトの継続は可能です」

階段を降りていく2人。その先の、白々とした灯りに照らされたスペースには、簡素なベッドが置かれ、白いシーツの上には若菜が横たえられています。

「彼女の体内に融合したクレイドールメモリをよみがえらせる方法さえ見つかれば」
「<ミュージアム>は組織体として崩壊したのでは」
「新たな組織のトップもわたしが用意します。ぜひ続行を」
ストップウォッチのタイマーが鳴り、時間を検める女局長。ここまで5分12秒。
「次があるの。後ほど詳しく報告して」立ち去る女局長。
それを見送り、若菜を見つめる加頭。昏々と眠り続ける彼女の額には、何やら白いチップが取り付けられていて不気味です。

トップとはたぶん、これまで保護してきた冴子様のことでしょうね。
組織の決定に反し自分の担当プロジェクトを強く推す、証券マンや銀行員を主役にしたドラマならよくある展開ですが、終始無表情、プラス平板な声音のあの加頭がやっていることなので、その熱意はどこから来るのかとギャップを感じてしまいます。

理想

若菜姫は、屋敷の崩壊直前に連れ去られた可能性が高い――。
おれたちは、一番怪しい人間を追跡していた。


冴子に迫るカメラ視点。連続してシャッターをきる音に、振り返る冴子。

「あ、で、見つけたよぉ。園咲冴子」その写真を手に足湯につかりながら、話しているのはウォッチャマンです。聞き手は翔太郎、亜樹子(一緒につかってる)、そして竜。「ここ数日サーキットで、よく走ってる」
「なんでそんなに何でもかんでも知ってんの?」
「ふ、こんな美人が一人で走ってたらぁ……すぐバイク乗りの噂になるってば♡」

茂木ツインリンク。や~み~の~な~か~♪ と歌いたくなる、薄曇りの空の下を独り疾走するバイク。それを駆るのは冴子です。フルフェイスのヘルメットの下から肩に流れる長い髪。

(わたしの証明……それはわたしが若菜に優っているということ。でも、認めさせるべき父はもういない……若菜)

軽快なBGMとともに急追してくる、マシン・ハードボイルダー。冴子をあっさり抜き去っていきます。抜かれる瞬間、ちらりと相手の正体を認め、追いすがる冴子。
そして、その前方より逆走してくるのは、赤いディアブロッサ。危険な赤いライダージャケットの主は、竜。
交錯する三台のマシン。急ブレーキ。翔太郎と竜の間で、ヘルメットを脱ぐ冴子様。軽く頭をふる、肩から腰への曲線。
この一連の流れ、無駄にかっこいい映像で大喜びです。わたしが。

「ゲームセット、ってとこかしら?」
「そういうこったなあ」降りながら、「Bad Lady?」
その翔太郎を見てため息をつく冴子様。
「あんたみたいな冴えない男が、父を倒してしまうなんて。最悪ね」
その背後でやはりバイクから降りる竜。
「冴子姉さん」そしていつからそこにいたのか、コースに降りてきていたフィリップ。「教えてくれ、若菜姉さんをどこへやった?」
「若菜」しかし冴子の顔に広がるのは純粋な驚きの色。「若菜が生きてるの?」と問いつつバイクを降ります。
「知らなかったのかい? ……若菜姉さんは今、危機にさらされている、ぼくには感じるんだ」そちらへ詰め寄るフィリップ。

そしてもう一人。いつものごとくアタッシュケースをアスファルトに落とし、冴子に歩み寄っていく白服の男、加頭。
「ひどいですよ冴子さん。一人でいなくなってしまうなんて。さあ、あなたを迎えに来ました」
「あたしがどこへ行こうが勝手でしょ」
「貴様、どこかで」その姿を見咎める竜。43話でシュラウドの話を聞くため冴子を訪れた竜と、すれ違っていますよね。
「財団Xの、加頭順と申します」
「財団X?」振り返る翔太郎に、
「<ミュージアム>のスポンサーよ……闇の巨大資本」解説する冴子様が親切です。
「背後にまだそんなやつが」
「最早背後ではない」ちらりと翔太郎を見る加頭。「わたしは冴子さんとともに達成します。<ミュージアム>の宿願、ガイアインパクトを」
「あなたが若菜を?」
「ええ。彼女は尊い犠牲となります」淡々と話す加頭に、フィリップの形相が変わり、
「若菜姉さんを返せ!」
「お断りします」

無表情なまま加頭が取り出したメモリは「U」。その名称よりも、その色に目を留める冴子様。

「園咲の者にしか使えない、ゴールドメモリ……!」
「スポンサー特権というやつですね。これはわたしと適合率98%、まさに運命」顔色も変えずに応じ起動させる加頭、とっさに身構える翔太郎。
<utopia>と地球の声が呼び、途端に無重力となって宙に浮き上がる翔太郎、冴子、竜、フィリップ、亜樹子。そして三台のマシン。その様を微笑み見つめる加頭は、おもむろにユートピアドーパントと姿を変えます。
「わっ!」
「きゃっ!」
途端に爆発的なエネルギー塊がその場に出現し、勢いに弾き飛ばされてばらばらと落ちる一同。
はっと起き上がり、アクセルもメモリを起動させ、変身! といち早く走りだしたのは竜です。
そして帽子の埃を吹き、かぶり直す翔太郎。
「フィリップ! おれたちも変身だ」
しかし相棒の返答は、意外なものでした。
「まだできない……」
「えっ?」

その間もユートピアに立ち向かうアクセル。かれが振りかざす剣をひらりひらりと躱し、謎の力で押し返すユートピアは、しかしまだ指一本すらあげていません。

「おいなんでだよ!?」アクセルの劣勢を見てなお迫る翔太郎。
「次のWの変身は」俯いたまま叫ぶフィリップ。「若菜姉さんを助ける、その瞬間にとっておかなければならない! 今度Wに変身したら!」

ようやく片手を上げるユートピア。その左手の先から発された火弾に倒れるアクセル。

それを見たのか、声を震わせるフィリップ。
「……消滅してしまうかもしれない」言って右手をあげてみせます。「この地上から……永遠に」
その指先が緑のデータに変換され、宙に散りそうになっている様に驚愕する翔太郎。わたし聞いてないと起き上がる亜樹子の声も震えています。
「……あ」言葉が出ず、ただ口を開く翔太郎。見たものを認められず目が泳ぎます。「何言ってるんだフィリップ………でたらめ言うな」
それでもまだ、翔太郎の顔を見ないフィリップ。

今度は左手を、注目をあつめるように開いてみせるユートピア。たちまちその場に雲が巻き起こり、激しい竜巻に巻き上げられ、雷に撃たれて悲鳴を上げるアクセル。
力量の差がありすぎて猫が獲物をなぶっているようです。左手を下げれば不思議な術が解かれ、まっすぐアスファルトの上へ落下するアクセル。
「何だ、このパワーは……っ」
その眼前へユートピアが杖を突きつけると、みたび宙に吊り上げられるアクセルの身体。
「あなたとは次元が違う……」
「あっ」意識が遠のきそうになる、アクセルをもう一度地面に叩きつければ、たちまち全身から吹き上がる火花。すさまじい悲鳴をあげつつとうとう変身を解かれ、失神する竜。
「竜くん!」

「来人」あっちもこっちも修羅場のなかで、クールに振り返る冴子様。「今頃お父様もきっとお墓で泣いているわ。……お墓で、ね」

「……え」
意味がわからないフィリップと翔太郎。彼らに向けまだ何か言おうとする冴子の背へ、その時、杖を突きつけるユートピア。たちまち磁石が鉄を吸い付けるように、冴子様の身体を引き寄せ、抱きとめます。
「加頭!」もがく冴子様。「離しなさい!」
「行きましょう、あなたの夢をかなえるために」意に介さないユートピア。この2人の体格差は萌えます。音高く杖を地面に打ち付ければたちまちひび割れるアスファルト。何らかの管が傷ついたのか、大量に吹き出すガス。
探偵たちが怯む間、その中へ姿を消していく2人。

チャーミングレイブン。
「……若菜」
白いベッド。まだ眠り続ける妹の顔を覗きこむ冴子。
「園咲冴子さん。新生<ミュージアム>のトップです」そんな冴子を、女局長に紹介する加頭。
「彼女が後継者となり、ガイアインパクトを実行すると?」ストップウォッチを取り出し、タイマーボタンを押す女局長。
「ええ。メモリ適性のない市民を瞬時に消滅させる人類選別の儀式。しかも我々はそれを、地球全域に行います」
「どうやって」
「若菜さんをデータ化し、財団の人工衛星にインストールするんです」
加頭のとんでもない計画に、はっと振り返る冴子。
「なるほど。上層部に投資再開の検討を要請してもいい……」頷く女局長。
「ぜひ」
「成功したら、だけど」アラーム。「次があるから行くわ」
微笑む加頭。
「ついにあなたが、<ミュージアム>のトップですよ?」
しかし冴子さんの表情は暗いままです。これでは加頭や財団Xの傀儡も同然で、彼女自身が望んでいた力の証明、有能さの証明にはならないのですから当然ですが。そんな彼女に示される、もうひとつのゴールドメモリ、<taboo>――。

葛藤

鳴海探偵事務所ガレージ。
フィリップの言葉にまだ動揺を隠せない翔太郎の前で、腕を広げるフィリップ。
「知りたい項目は、若菜姉さんの居場所――キーワードは、<ミュージアム>、財団X、施設」
しかしまだ、本を絞り込むことはできません。
「組織の秘密施設は、風都内に大小27箇所ある」
「しらみつぶしに探すしかないか」と竜。この人はこの「W」終盤ではほぼ毎回、めちゃくちゃにやられているのにタフです。
「いや。……まてよ」考えこむフィリップ。長姉・冴子のあの言葉は……。「父さんは埋葬されていないはず……そうか。追加キーワード、墓」
自分の推理に自信たっぷりの表情がぞくぞくします。その切れ長の目の前に点滅するgraveの文字。

地球の本棚から脱したフィリップは、そのままホワイトボードに歩み寄ります。記された文字はCHARMING RAVEN。
「そこにメモリ製造工場が隠されている」
「なぜ墓でわかったんだ?」
「社名がチャーミングレイブン。墓はグレイブ」きゅっきゅっと音を立て、ホワイトボードに書かれた社名のなかから、GRAVEの文字をマジックの線で囲むフィリップ。「ぼくの検索に引っかかるのを見越した、冴子姉さんのヒントだ」
あの人の心も動いているのかもしれない、といいつつ翔太郎に近づくフィリップ。
この検索の間、ずっと一言も発せず座っていた翔太郎に。
「さあ、……行こう」
「!」突然立ち上がる翔太郎。驚き見守る竜。「……待てよ。そんなことよりさっきの話だ。お前が消えるってどういうことなんだよ」
「………」痛いところを突かれ、彼らに背を向けるフィリップ。リボルギャリーのあるほうへ一歩、二歩、歩み、「知っての通り、ぼくは一度死んでいる。この肉体は地球の本棚の力を得たことにより、奇跡的に再構成されたデータの身体だ。……それが今、加速度的に消滅している」
「こないだ若菜姫と融合した所為か」前に回り込み問う翔太郎。見返すフィリップの目が切ないです。
「そうだ……ぼくらは地球に近づきすぎたんだ」
ショックを受けたような翔太郎に、言い聞かせるフィリップ。「今度Wになったら、ぼくの身体は完全に消え、地球の記憶の一部となってしまうだろう」
目を伏せる翔太郎。なおも声を励ますフィリップ。
「でも姉さんを救ってからであれば。悔いはない」
「もう覚悟は決めてあるんだな」
「それ、絶対に避けられないことなのかな」
動けない翔太郎に変わり、問う竜と亜樹子。
「ああ、回避できない」そちらに応え、まだ煩悶し続ける翔太郎の顔を見て、微笑むフィリップ。「……諦めてくれ」
「馬鹿野郎!」その襟を掴み、叫ぶ翔太郎。「んなこと諦められっかよ!」
一転足音高く駆け去っていきます。
「翔太郎くん!」
亜樹子の声を聞きながら、目を伏せ、息を吐くフィリップ。

暗い森。シュラウドを探し求めている翔太郎。
「いるんだろ? 出てきてくれ! ……シュラウド!」
声を枯らし走り続ける翔太郎。とうとう力尽き、地を拳でたたいて我が身の無力を嘆き始めた頃、ようやくシュラウドが現れます。
「ほんとなのか!」走り寄る翔太郎。「フィリップが消えるって」
「……」頷くシュラウド。
「なんかねえのか。助ける方法は? ……教えてくれ!」
首を振るシュラウド。その肩をつかみ、襟をつかんで叫び続ける翔太郎。
「冗談じゃねえよ! あいつを救うことは、……おやっさんから託された、おれの一番でっかい依頼なんだ! なのに!」
「鳴海壮吉に、来人を救うことを依頼したのは、このわたし」
あんたが依頼人、と一瞬、我に返る翔太郎を、見返すシュラウド。
「そしてあの子は救われた……最早来人は、復元されたデータの塊ではない。お前のおかげだ」
「でも消えちまうんだろう!?」
「あの子が」辛そうに背を向けるシュラウド。「安心して笑顔で消えていけるようにしてあげてほしい。それがいま、あの子を救うということ……」
聞けない、聞きたくないというように、ただ首を振り続ける翔太郎。
「頼む。左翔太郎」
「勝手なこと言うなよ!」掴みかかる翔太郎。しかしその瞬間、シュラウドの姿は宙に消え――。



鳴海探偵事務所。ハードボイルダーのライトを落とし、沈鬱な表情で戻ってくる翔太郎。しかしかれを迎えたのは意外な光景でした。
派手に鳴るクラッカーの音。色紙やモールで飾り付けられた室内。
「フィリップくん 海外留学 行ってらっしゃいパーティー☆」と模造紙に飾り文字で大きく書かれた下には、いつもの風都イレギュラーズの姿が揃っています。
「ばんざーい!」遅れて現れた翔太郎を歓迎するように叫ぶ一同。
「……なんだこれ」
「わたしがみんなを呼んだの」奥から現れたのは思いつめた表情の亜樹子。「フィリップくんの海外留学を祝した……サプライズパーティー!」
しかし努めて明るい声を上げる彼女。それをひゅう、と囃し立てる一同の中で、フィリップ自身もうれしそうにはにかんだ表情を浮かべています。

「おい亜樹子!」
「しっ」
「……なんだよサプライズパーティーって」
「いろいろ考えたけど。これがあたしの決めたこと」

翔太郎と亜樹子のやりとりを見ながら、フィリップは
「さあみんな!」とさらに明るい声をあげます。「プレゼント、開けてみて。……ぼくからのプレゼント!」

「戦いに行くのは明日にして」決然とした声の亜樹子。「今晩だけ、いいでしょ? フィリップくんに、思い出たくさんあげなきゃ」
亜樹子の強さ、優しさが心にしみるいいシーンです。ですが、フィリップを愛する人々の中で、その消滅をただ独り受け入れられない自分に、もがいている翔太郎にとって、これほど腹立たしい言葉もありません。
そんなかれに振り向き、ふふ、と笑うフィリップ。
「……フィリップからもらった」と、自分のプレゼントの箱を開けて見せる竜。

「はいみんな! では主役から、ご挨拶がありまーす!」前へ出て行く亜樹子。「いえーい!」
「あきちゃん?」驚くフィリップ。しかし皆の歓声に抵抗を諦め、再び笑顔で口を開きます。「ぼくは、人とのつきあいに興味はなかった……悪魔みたいなやつだった。でも、翔太郎に連れられて、この、風都に来て」
微笑み翔太郎の顔を見る竜。
「今ではどうなの?」とエリザベス。
「大好きさ……街も、みんなも」応えるフィリップの笑顔。
いえーい、大統領、と囃し立てるサンタちゃん、ウォッチャマンや刃野、真倉。ほほえみ拍手するクイーンとエリザベス。
さここで、も一回、乾杯! とさらに仕切る亜樹子。

かんぱーい! と盛り上がる室内に背を向け、翔太郎はプライベートスペースへ引き上げていきます。
帽子を投げ出し、自分のデスクに向かう翔太郎へ、自らが“プレゼント”を運んでいくフィリップ。
「翔太郎? プレゼントだ……後でいいから、開けてみてくれ」声をかけても振り向かない相手に仕方なく、手近な棚に置きます。
このシーン、いつものBGMも物憂げなスキャットになっていて切なさに拍車をかけます。

出立

夜通しのパーティーも終わり、白々とした朝の光が鳴海探偵事務所にさしこむ頃。
開けられないまま残されたフィリップからのプレゼントと、いぎたなく寝こけている風都イレギュラーズを置いて、出て行く竜と翔太郎。亜樹子とフィリップ。
「所長。敵の工場に乗り込むんだぞ。きみには危険過ぎる」ディアブロッサを前に赤いグラブをつけている竜。
「行くよ。これが最後の別れかもしれないし」
「……おれの傍を離れるなよ」
彼らの会話の間、ハードボイルダーには既にまたがり、無言のままやはりグラブをつけている翔太郎、ヘルメットをかぶっているフィリップ。
「もち!」亜樹子の声に、前を向いたままの竜の口元がふっと笑ったような気がします。そんな2人を見ていた翔太郎、フィリップも。

チャーミングレイブン。
行き来する組織の人間を手早く倒しながら、奥へ突き進む4人。警報が鳴り響く中、薄暗い室内でのアクションが面白かった。
「こっちだ」
階段まで到達する4人。
「若菜姉さんはこっちだ」
「チョー便利若菜姫レーダー!」
先に立って降りていくフィリップと亜樹子。残った竜は翔太郎に、迫り来る追手を見ながらここは任せろと叫びます。頷きフィリップらを追う翔太郎。アクセル出現。ばたばたとマスカレイドを倒していくアクセルのアクションも、薄暗い中。

「うああっ!」
そして先頭に立ち前方から迎え出るマスカレイドをたたき落としつつ階段を降りる翔太郎、後に続くフィリップと亜樹子。
ついに若菜の居場所にたどり着きます。
「――若菜姉さん!」
「若菜姫?」
姉さん、と枕元に駆け寄るフィリップ。
「らいと、来人」とうわ言のようにつぶやく若菜。とっとと連れて逃げるぜ、と翔太郎が抱き起こそうとします。
「待って」その時、若菜の額の装置を見つけるフィリップ。「何を測っているんだ?」
「彼女の能力の発動数値」その時、答えつつ階段を降りてくる男。
「加頭」
「これと直結しています……」と、小さなタブレットを示します。それに対応してか、若菜の額の装置が皮膚の下に沈むのを、目撃するフィリップ。「クレイドールエクストリームを100とした時、今は……43%」
「姉さんをプログラム扱いする気だな」自分もそうされていたからわかるのでしょう。睨みつけるフィリップ。
「流石元祖データ人間。理解が早い」
「ふざけるな」
「これがふざけている顔に見えますか」怒りに声を震わせるフィリップに対し、大真面目です。再びユートピアを発動させる加頭に、室内のものすべてが、若菜も含め浮き上がります。重力を操る能力があるのでしょうか。

「翔太郎!」決意するフィリップ。「いよいよその時だ……こいつを倒す! その後は……頼んだよ」
<cyclone>。地球の呼び声。しかしそれに続く<joker>は聞こえません。
「翔太郎!?」振り返るフィリップ。「翔太郎!」
「翔太郎くん?」
「うるせえな。よし……」メモリを取り出し構える翔太郎。その時加頭は再び、ユートピアドーパントの姿に。あっさり重力を元に戻し、その場の全員を床に落とすと、若菜の身体のみ引き寄せ、抱き上げます。
「若菜姉さん!」
「大事な生贄です……返してもらいますよ」肩に担ぎ上げ、片手で壁を壊して出て行くユートピア。
その前に、雑魚を片付け追ってきていたアクセルが現れます。しかし今度も面白いように操られてしまうアクセル。
「ああっ!」身体を柱に打ち付けられたところで、追い付いてきた翔太郎らもそれを目撃します。
「照井!」
「翔太郎!」変身を急かすフィリップ、今一度メモリをかざすも、やはりその手が震え、うなだれて何もできない翔太郎。
それではとトライアルになるアクセル。

迎え撃つユートピアは、じゃまになる若菜の身体を暫時、適当な壁に貼りつけておきます。ものすごく扱いがぞんざいです。

「貴様!」と叫ぶも、
「若菜姉さん! ……翔太郎。翔太郎!」早く変身してくれと焦るフィリップに迫られ、やはり何もできない、翔太郎。

打つ手なし

打って変わって超高速で攻めるトライアル。しかしユートピアはその速さにも負けず、やはり杖を用いてトライアルの動きを自在に止めてみせます。
「互角の速さだと?」
とまどうトライアル。その喉元に杖を突きつけるユートピア。
「すぐにわたしが勝ちます」
「……」呻くトライアル。
「というよりきみが遅くなる。今度はじっくり、わかりやすくお見せしましょう」

そのままトライアルの身体を抱き込み、壁に飛んでもう片手で若菜を小脇に抱えると、高い天窓まで飛び上がるユートピア。ガラスを破り屋上よりはるか高くまで舞い上がると、うちかかるトライアルの剣を抑え、かれ一人を落とします。
衝撃にのたうち回るアクセル。そうしながら起き上がり、自分の変化に驚きます。
「なに? これは」いつの間にかトライアルが解かれ、アクセルに戻っています。
「ユートピアとは希望の力のメモリ。きみの生きる気力をもらい、わたしの力とした」

「――まずい。翔太郎早く変身だ!」外まで駆け出してきたフィリップ。アクセルが取り返しのつかぬダメージを受ける前に。「翔太郎!」
役に立たない相棒に掴みかかります。

「……その結果を味わいなさい」ゆっくりと一歩ずつ、アクセルへ近づくユートピア。よろよろと起き上がり、剣を手に打ちかかろうとするアクセル。
「ふん!」
ただ一蹴り。瞬時にしてアクセルの全身は炎に包まれます。
「うわああああああっ! うあ、わああああああっ!」絶叫するアクセルの姿に、悲鳴を上げる亜樹子。変身をもとかれ、全身の痛みに気を失う竜。

「照井竜!」その光景のあまりの凄惨さにフィリップが声を上げた、その時。
路上に放置されていた若菜の身体がぼんやりと緑に光ります。ユートピア、ほんとに冴子への対応と若菜への対応が違いすぎます。
「若菜さんの能力数値が向上しましたねえ」驚き振り返るユートピア。

「おおおおおっ!」ついに雄叫びを上げ跳びかかっていくのは翔太郎です。ただ変身もしないままですので相手にはならず、何度もつき転ばされるその姿に、
「ああ、やめろ……っ」と叫ぶフィリップ。「やめろ! やめろおおっ!」
その度に光る若菜の身体。
「はっは」
「やめるんだ翔太郎! やめろ!」

跳びかかっても跳びかかってもいなされ、メモリの不思議な力で生身の身体をビル壁面や地面に打ち付けられる翔太郎。

「……やめてくれ翔太郎。やめろ……やめろやめろやめろ! やめてくれ! やめるんだ翔太郎!」
ボロ屑のように転がる翔太郎の喉元を掴み、全身を高々と持ち上げるユートピア。
「彼女の意識は今、園咲来人とシンクロしています。素晴らしい……若菜さんの復活法がみつかった」
苦しさに咳き込む翔太郎へうっとりと語りかけ、なおも喉元を締め上げるユートピア。それを見て力なく膝を落とすフィリップ。
「来人くんの精神的苦痛が若菜さんを呼び覚ます。……ちょっと死んでみてください。来人くんの前で」
「あっ……」今や足をばたつかせ、ユートピアの手を掴むしかできない翔太郎。
「左……」それを見る竜も、目の光は生きているもののわずかに腕を伸ばすしかできません。ここの鬼気迫る表情、素晴らしかったです。
ぎりぎりと喉を締め上げる音。
「やめてくれえええええっ!」
耐えられず絶叫するフィリップの心痛の顔で以下次号。
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