LOVE! HEROES!

特撮番組全般、そして高岩成二さんと伊藤慎さんを応援します。

邦訳では「あのひと」と、憧憬をいくぶん含む、感傷的な呼ばれ方をされる運命の女性。
短編「ボヘミアの醜聞」でホームズが回想するTHE WOMANことアイリーン・アドラー、満を持して登場!

女嫌いのホームズがなぜ彼女だけ特別なのかというと、聖典ではまさに頭脳によってかれを翻弄した唯一無二の女性だからであり、この現代版シャーロックに出てくるアイリーンもご同様。かといって決して頭でっかちというわけではなく、女性的、かつ謎めいた魅力と生き生きした好奇心、ウィットに富む柔らかな知性の持ち主です。
高級娼婦という今回の設定は確かに人の弱みを握り情報を集めるにはもってこいで、説得力があります。要するに峰不二子。シャーロックやモリアーティと渡り合うだけあり、いい性格してます。
そして、そんな彼女に負けても、してやられた悔しさより、
「この自分に勝つなんて!」という驚きが相手への尊敬につながってしまうシャーロックのほうも、やっぱりいい性格をしています。
現代版はなんかちょっと、お互いloveがあったりするんじゃないか? という描き方ですね。いやいや目の保養。


Buckingham Palace / Leonard Bentley


そして今回、いちいち指摘しませんが(というより気づいたぶんだけ書いてもどれだけ長くなることか!)それぞれのエピソード、ちょっとした会話、どれもこれもが伏線というか、どのシーンも他のシーンに呼応する部分を含んでいるというか、面白いのですがこれまたすごい情報量。
「あれもこれも拾ってしまうのか」とまったく気が抜けない、凝りに凝った脚本です。
物語は「大いなるゲーム」ラストのプールサイドから、始まります。絶体絶命のシャーロックとジョン。勝ち誇るモリアーティ。
しかしその時、モリアーティの携帯に着信が。気取っているのに着メロの趣味w

(どうしよう、出ても失礼ではないでしょうか?)と目顔で言っているようなモリアーティ。
(どうぞどうぞ、お気になさらず)とやはり、表情や手振りで勧めるシャーロック。

こんな時でも身についた礼儀を忘れない、この2人の描写がおかしくて、ただ1人、あきれているジョンにこそ感情移入してしまいます。
おもむろに電話に応じ、
「なんだって!」と途端に叫び声を上げるモリアーティ。なにやらビジネス上、耳寄りの情報だったらしく、でたらめだったらただじゃ置かないと凄みつつもまだまだ詳しいことを聞きたい様子。再びちらりとシャーロックの方を見ます。

(どうぞどうぞ)ともう一度、シャーロック。

詫びるようにうなずき、何やら話しながら――死ぬには都合が良くない日だと言い残し、プールサイドから立ち去ってしまうモリアーティ! どうやら決着は先延ばしになってしまったようです。

そして一瞬の後、映しだされるのは電話を切る、優雅な女性の手。携帯を置き、奥のベッドルームへ戻っていくアイリーン・アドラー。
モリアーティの話し相手が実は彼女だった、というのはいかにもな導入ですが、ベッドで彼女を待つ人物に、
「殿下……?」と甘い声をかけているのがなんだかいきなりスキャンダラス。

「大いなるゲーム」で既に、「ピンク色の研究」のことが話題になっていましたが、すっかり有名ブロガーになっているジョン。これまでに記録した数々の事件(「まだらのブロンド The Speckled Blonde」とかw)のことがさらりと紹介されます。
「未解決事件は書くな」と注文をつけるシャーロックも、当然有名探偵になってしまっているわけで、人相を隠そうとおかしな帽子を被ったところで、さらにパパラッチされてしまったり(記事のタイトルは「ハットマンとロビン」――この新聞の別の記事にはモリアーティのテロ組織への関与が報じられています)。
ということで続々寄せられる依頼。興味が惹かれるか、否かでそれを篩にかけるシャーロック。
おじいちゃんが死んだのに会わせてもらえない、という幼い姉妹。
火葬した伯母の骨がすり替えられている、と主張する男。
おたくの通訳 The Geek Interpreter」事件はちょっと気になった模様。

そんななか警察に依頼され着手した事件が2つ。
何もない、だだっぴろい河原の草原にただ1人いたキャンパーが、ほんの一瞬の隙に――たまたま近くでエンストした自分の車と格闘中だったドライバーが、バックファイアに驚いて目を離した間に――何者かに殴打され死亡した事件。SAAB好きなのでうれしかった。
そしてもう一つ、放置車両のトランクから死体で発見された旅行者の事件。死因にはなんらおかしな点もなく、しかしなぜか、乗ってもいない飛行機の搭乗券や、出国スタンプの押されたパスポート、機内食の残り(紙ナプキンとビスケット)を持ち、まるで機内で死んだまま空間移動してきたようにしか見えない、不思議な死体。

しかしそんなことより何より、強引にかれを呼び出す(婉曲話法)依頼人の話に、興味をひかれてしまったシャーロック。
無礼この上ない格好(ガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」を連想をしまいました)でバッキンガム宮殿まで出向き、聞かされたのは、王族に繋がるある若い女性が、アイリーン・アドラーなる毒婦の手管に落ち、公表されては好ましからざる写真を撮られてしまったというスキャンダル。
しかも相手は何も要求してこない。
調査し、写真を奪還せよというのが、御自らジョンのブログをお読み遊ばされたという、さる高名な依頼人の、そしてその仲介をした兄・マイクロフトの意向です。
不承不承連れてこられたのに、相手の目的が脅迫ではないらしい、と聞いた時点で興味が出てくるシャーロック――。

もちろん、シャーロックを釣り上げる餌としてこのスキャンダルを用意していたアイリーン。

アイリーンとの邂逅を果たし、そして写真の隠し場所(アイリーンの携帯)を探り当てたのに、なぜか乱暴なアメリカ人が後から押しかけてきて話は一気に血生臭くなります。
機転を利かせ携帯を守ったシャーロックに、恩知らずにも薬物を打ち、昏睡させておいて独り逃げ出すアイリーン。同行していたジョンはシャーロックを介抱せざるを得ず、後を追うことができません。

そうしておいてシャーロックの携帯をいじり、自分からの着信音をセクシーな女性の声に設定してしまういたずら好きなアイリーン。
そして一度は持って逃げた、“殿下”のあられもない写真を収めた携帯を、クリスマスプレゼントとして送りつけてくるアイリーン。
送りつけておきながら、厳重なパスコードをかけているのもシャーロックへの挑戦、というわけです。

魅力的な謎さえあれば、それを解かずにはいられない探偵の習性を利用し、シャーロックの鼻面を引きずり回すことができる。
そのうえで懐に飛び込み、信頼を得る。

自分が欲しいものは身の安全だけだと信じこませるための長く手の込んだ駆け引きの果てに、彼女はまんまと、知りたかった暗号の真相をつかむことに、成功します。
利用されていたことを知ったシャーロックは――。

ということでシャーロックを言いなりにさせるアイリーンの手練手管がこれでもかこれでもかと描写されていて、同じ背格好の女性の死体を替え玉にするシーンまであるのですが、実はシャーロックの心は、最初の衝撃的な邂逅の時点で、既にアイリーンにつかまれてしまっていたのではないか、とわたしは思います。
昏睡していた間、かれの夢に登場したアイリーンは、キャンパーとドライバーの謎をシャーロックとともに解くのですが、ここの映像がとにかく凝っていて面白くも美しく、加えてアイリーンも、まるで数学の問題が解けたスクールガールのように、ひたすら無邪気で愛らしいのです。こんな夢を見るとは、自分と同じレベルで会話できる女性に会ったの、この人たぶん初めてだったのでは。
一方のアイリーンもまた、自分にわかりやすい興味を示さないシャーロックを初心だからと解釈しつつ、その頭脳にはすっかり惚れ込んでしまったようで、
「ああ、あなたを屈服させてわたしに2度、慈悲を請わせたい!」とS独特の愛の告白をしてましたね。賊にとらわれ今はこれまで、と覚悟した時も、シャーロックにお別れのメールを打つ時間をもらっていて、ちょっといじらしい。


Tacky Christmas Sweater / RichardBH


ハドソン夫人や友人たちと囲むクリスマスディナー(クリスマスではジョンのようなローゲージのニットを着るもののようです)では、ジョンの新しいガールフレンド、ジャネットをサラ呼ばわりしたり、モリーの、自分への想いを人前で暴いてしまったりと相変わらずの傍若無人だったシャーロックですが、それでもモリーを傷つけたことを悟って詫びたり、ハドソン夫人のリクエストに応じてバイオリンを弾いたりと、ずいぶん柔らかくなってきてるなという印象です。この変化にはジョンの感化が大きいのでしょうが、アイリーンとの出会いも影響しているのかもしれません。

そしてクライマックス――。
シャーロックの失態により、暴かれた真相そのものも、また衝撃的でした。
敵に知られてはならない情報を、よりにもよってモリアーティにつかまれてしまったことに、苦悩するマイクロフトに萌え。
そのことを説明しつつ、
「お前にもはじめからその断片はつかめていたはずだ」とシャーロックに認めるマイクロフトに萌え。
アイリーンに、
「モリアーティに聞かされていた通りだわ。ホームズ兄弟――兄は“氷の男”だと」と賞賛されるマイクロフトに萌え(ちなみに弟は“童貞”呼ばわり)。
そして失地回復し、アイリーンの携帯のパスワードを解いたシャーロックが
「これで埋め合わせになるかな?」と問うと
「十分だ!」と答えるマイクロフトに萌え。
今回マイクロフトに萌えてばっかりです。ていうかいつも冷静、を通り越しにやにやと余裕を見せている人が、非常時にシリアスな顔を見せるのって萌えませんか。

アイリーンの“死”をシャーロックになんと伝えようかと悩み、
「彼女はアメリカで証人保護プログラムを受けている」とよく出来た嘘まで用意してジョンの意見を仰ぎに来るマイクロフト。
嘘など必要ないと言いつつ、いざシャーロックに出くわすと、とっさに嘘の方を採用してしまうジョン。
この部分も、ああ、家族だなあと思ったり。

今回のエピソードでシャーロックを奮い立たせるもう1人の女性、大家のハドソン夫人も、弱々しいおばあさんに見えて実は荒事にも気丈な、尊敬すべき美点の持ち主であることがわかります。彼女がアメリカ人に傷を負わされた時の、シャーロックの反撃の苛烈さと言ったら。
危険だから一時的にもどこかへ避難してはと提案するジョンに、
「ハドソン夫人がいなくなったらこの国は終わりだ!」と主張するシャーロック、この部分も、ああ、家族だなあと思ったり。

悲壮感たっぷりの終幕、そして最後の最後での、どんでん返し。痛快な落ちで、そうこなくっちゃと思わせられますw
そしてジョンのブログ(「ベルグレーヴィアの醜聞」ではなく、事件が起こっている頃の記事)を見ると、なんとこうなる伏線が。
10/1追記。ごちゃごちゃするので感想からは省いたのですが、この事件、CIAの関与がちょっと不自然に見えるのですよね。マイクロフトの計画においては協力関係にあるらしいのに、なぜシャーロックとは敵対したのか。

1)CIAは正しかった説
アイリーン・アドラーがかれらの計画について探っていることを察知したCIAは、シャーロックが彼女に協力する可能性も考慮し、重要情報がテロリストに流れる前にアイリーンの携帯を押さえようとした?
貴人の裸の写真などはどうでもよくて。
=CIAがこのような行動に出るのなら、マイクロフトも当然その根拠くらいは知っていてシャーロックに警告するでしょうからこれは考えにくい。

2)同盟とはいえ信用はできない説
マイクロフトの計画については協力関係にあっても、もののついでにイギリスの弱みにつながる情報満載(貴人の裸の写真とか)のアイリーンの携帯を欲した?
=これはありそうなことですし、マイクロフトもアイリーンの情報収集力を侮っていたかもしれません。
ただ、そうすると、その程度のことでアイリーンの助手を殺したり、ハドソン夫人を締めあげたりしたわけで、同盟国内で暴れすぎ、やんちゃし過ぎということになりやっぱり疑問。

3)マイクロフト兄馬鹿説
1)に近い状況ながら、マイクロフトはそれも含めシャーロックならうまくやるだろうと高をくくっていた?
=「大いなるゲーム」でもそうでしたがかれは弟の能力が評価され名をあげることをよろこんでいましたから、今回も積極的にシャーロックを推薦したのかも。ということは弟の童貞力を侮っていた?

シャーロックに手ひどく撃退された恨みもあってか、お望みの答がこれだ的な皮肉をいう場面があったと思うのですが、このエピソード、CIAの側から見るとどんなふうに見えるのでしょうか。
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2015.09.30 05:59 | dvd box 観たらめも | トラックバック(-) | コメント(-) |
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