LOVE! HEROES!

特撮番組全般、そして高岩成二さんと伊藤慎さんを応援します。

名探偵の復活、および名コンビの復活を描いた「空の霊柩車」。
ほぼ全編シャーロックのスピーチに終始する異色作、「三の兆候」。
いずれもコミカルで愛らしく、シャーロックとジョンのファンにとっては贈り物の花束のように素敵な2作でしたが、そのなかにも、ちらちらと過る不吉な影に、わたしたちは気づかずにいられません。たとえば「空の霊柩車」でジョンを襲った人物の目的とは。たとえば「三の兆候」で、読みあげられる祝電に、微かに顔を歪めるある人物の想いとは。


AU CLAIR DE LA LUNE / marsupilami92


わたしは小学校の高学年くらいから翻訳ミステリを読むようになったのですが、そのせいで作中で“脅迫者”が出てくれば即、
「ああこの人は殺される」と思うようになってしまいました。
脅迫者は、とくに欧米の作家には蛇蝎の如く嫌われ、蛆虫のように厭らしい存在として描かれます。
殺人の被害者が脅迫者であった場合、探偵は被害者よりも脅迫されていた犯人のほうにむしろ共感したり、同情したり、時には名誉を守る気高い行為、のように賛美することさえあるのです。
そこには何のリスクも犠牲もはらわずに行われる“金儲け”への蔑視があるのでしょうが、そうでなくとも他人の人生に寄生し、その行動を支配する、いつ終わるともしれない脅迫という行為そのものに、誰しも根源的な嫌悪を抱いてしまうからなのだろうな、と、この「最後の誓い」に登場する脅迫者がジョンをいたぶるシーンで思いました。
※以下の台詞は基本的にうろ覚えの意訳です。

阿片窟の代わりに

「息子がまた帰らないの。きっと悪い仲間と一緒なのよ、みなで薬や何か、好き勝手やれる場所があるの」
絶望した表情でジョンの妊娠した妻、メアリーを訪ねてくる隣人。その悲嘆に深く同情する妻を見て、ならば自分がそのたまり場から、息子さんを連れだしてこようと言い出すジョン。かれがスパナを隠し持っているのを見て、思わず咎める目つきになるメアリーに、
「だれか車の故障で困ってるかもしれないだろ」と韜晦します。
運転席に彼女を残し、自分が戻らなければ警察を呼ぶよう言いつけて、不良少年のたまり場となった空き家に颯爽と乗り込んでいくジョン。小兵ながら腕には憶えがあり、また本人は決して認めないでしょうが、そもそも性格的にこの手の荒事、危険や冒険に惹かれる危うさを抱えているのが、本作のジョン・ワトソンなのです。
果たして見張り役の青年をぶちのめし、隣人の息子を見つけ出し――そして麻薬中毒者たちのなかからふいに
「やあ、ぼくも迎えに来てくれた?」と声をかけられ驚愕します。

そこにだらしなく横たわっていた知己ジャンキーの名は、シャーロック・ホームズ。

シャーロックは潜入捜査のためだと一応言い訳するのですが聞いちゃいないジョンは、自分が目を離すと1ヶ月でこれか、と説教します。皆で帰るぞ、と言っていると、ジョンに殴られた青年も
「骨が折れた。おれも送ってよ」とやってきて、車で待っていたメアリーは思わぬ大所帯に目を瞠る次第。

聖典で阿片窟に入り浸っていたホームズは、もちろんそこでしか得られない“情報”が目当てだったのですが、本作のシャーロックはすこし違って、
「シャーロック・ホームズは麻薬中毒」という悪評を立てることが狙い。
ある女性議員の依頼により、イギリス社会の重要人物に広範囲に手を出している大物脅迫者から、彼女の夫の手紙を取り戻したいのですが、なかなかストレートに交渉に入れません。
高名な探偵の弱みを嗅ぎつければきっとそこにつけこんでくる、それが脅迫者と接触を持つチャンスだと、考えたシャーロック。

ブライズメイドとできちゃった

もちろんそんな戯言には耳をかさないジョン。またシャーロックが危ない遊びをしているのだと考え、モリー(トムと別れていました――やはり怒りに燃えてシャーロックをビンタ!)に尿検査させます。やはり手当てを受けるためここまでついてきていた、ジョンのせいで骨折したと主張する青年が、意外に明晰な頭脳の持ち主とわかって大いに気に入るシャーロック。

シャーロックを送り、ベイカー・ストリートまでやってくるジョン。
部屋では早耳にも先乗りしているマイクロフトが、「空の霊柩車」のトップ2にシャーロックの麻薬中毒の痕跡を捜査させている現場に出くわします。せっかくの噂を兄に隠蔽されてしまってはたまりません。これは捜査のためだと、現在の仕事を説明するシャーロック。
しかしターゲットの名を口にした途端、マイクロフトの顔色が変わります。
「脅迫者に手を出すな、かれは有用だ」と警告までしてくるので手荒く追い払い。さらに、
「寝室は見るなよ」とジョンに言い捨て、シャワーを浴びに行くシャーロック。
手持ち無沙汰に見回せば、居間から自分の椅子が消えていることに、改めてすこし、傷ついた表情になるジョン。それより寝室に何が、と思っていたら、シャツ1枚で寝ていたらしい若い女性が出てきて
「シャール? あらジョン。騒がしかったようだけど、終わったの? まあ、マイクが来てたの?」と甘い声で問うではありませんか。

今度こそ驚愕のあまりしどろもどろになってしまうジョン。

彼女は結婚式でメアリーのブライズメイドを務めたジャニーン。しかも
「コーヒー淹れてちょうだい。メアリーは元気?」
「おかげさまで順調だよ」
 的な社交上の会話のあと、シャーロックがシャワー室にいることを知ると、
「シャール、一緒に入っていい?」と馴れ馴れしく行ってしまいます。
え、彼女はここに泊まったの? え、シャーロックも追い返さず一緒にシャワーに迎え入れるということは、2人はそういう仲? ……と、ジョンと一緒に視聴者も驚愕させられる展開。
シャワーから出てきてもなお、いちゃいちゃしている2人に、意を決して
「つきあってるの?」と聞いたジョンは偉い。ジャニーンって結婚式ではシャーロックに会場の独身男性を品定めさせておいて、
「かれならお勧めかも」と言われたおたくっぽい男性と楽しそうに踊ってましたよね。
なんとなく気があってこうなったの、メアリーには言い難かったけど、今度4人で食事しましょうと言い、仕事に行ってしまうジャニーン、プラス、この提案にああ、いいよと鷹揚に頷くシャーロック。
何もかもが信じられないジョン。

日常に続くカタストロフィー

こんなふうに、いつもと同じドタバタから始まる今回のエピソード。
ジョンにとっては驚きの多い一日の始まりだったのですが、それを解決する間もなく、今度こそシャーロックの待っていた“脅迫者”本人が、ベイカー街の下宿に乗り込んできます。
シャーロックを愚弄し、イギリス国家を侮辱し、ついでに部屋が汚いからと暖炉で用を足し、シャーロックが何度、自分を女性議員の代理人と認めろと言っても無視して去る脅迫者。その無礼さに憤るジョンに対し、
「見たか、かれは手紙を懐に持っていて、ぼくにそのことを知らせたんだ――なんだかんだ交渉に乗る用意はあるってことだ!」と小躍りしているシャーロック。

いやべつに、脅迫者はシャーロックの演出した偽の弱みに、食いついてきたわけではないんですけどね。

チャールズ・オーガスタス・マグヌセン――すなわちCAM。
外国人、新聞社の社主。常習的な脅迫者。膨大な情報を蓄え、それによってイギリス社会の重要人物の誰に、そして何について、どこにプレッシャーを加えればよいか知り抜いている。首相すらも手玉に取る恐喝の帝王。イギリスでうまく行けば、その手法を今度はヨーロッパで使う、この国はちょろいから実験にはうってつけだと、シャーロック相手に臆面もなく言い放つ男。
ハッキングの恐れがあるので脅迫の資料はコンピュータ化せず、要塞のような自宅(アップルドア)の図書室に蓄えているところまでは、シャーロックも既に調べがついています。が、かれがガイ・フォークスの焚き火でジョンを焼こうとしていた男だとまでは、まだ判明していません。
視聴者には顔でわかるのですが。
気取った丸眼鏡の向こうから、相手の弱みを読み取り、さて何が起きるかを楽しみにしているかのようなうす青い目。
独り安全圏にいて、人々が脅迫に苦しみ屈辱に震えながら自分の支配を受け入れる様を、楽しんでいる男。
終盤、自分もマインドパレスを所有していることを、シャーロックに誇示して勝ち誇りますが視聴者としてはあのシーンもいやでしたね、お前がマインドパレスと言うなと。

うかつにもこの事件に、つい自分から巻き込まれていくジョン。この先に大いなる苦悩が待っているとも知らずに――。

シャーロック、撃たれる

というわけで今度の事件は色々とジョンにとってショッキングな展開となっていき、にもかかわらず
「自分はジョンを守る」と前回の結婚式で誓っちゃってるシャーロックはそのためにどこまでも自己犠牲を図るので、それがまたジョンには耐え難い苦痛となる、というストーリー。
そんな終わりの始まりが、シャーロック銃撃事件です。
ただまあ、このエピソード自体は、この陰鬱なストーリーのなかでもなかなかチャーミングな場面の一つ。

脅迫者が社主を務める新聞社に、まんまと潜入したシャーロックとジョン。ここでジャニーンはその秘書とわかり、つい疑いの目を向けるジョンに、そうだ交渉に利用するために口説いたと認めるシャーロックが最低なやつです。
前回でも書いたと思いますがジャニーンとシャーロックの会話は大好き。メアリーほどじゃなくとも変人耐性があり、正直で知性も高そうな女性です。何より蜂の巣箱つき別荘を買うセンスが素晴らしい。ほんとうに仲良しになれればよかったのに。

で、わたしは最初に脅迫者というのは嫌われるものだと書きましたが、実際これほど手広くやれば敵も多いわけで、こっそり手紙を盗むつもりで社主室に潜り込み、そこで先客に、覚えず出くわすシャーロック。
正面から撃たれた瞬間、唐突に脳内モリーと脳内アンダーソンが
「前に倒れるべき、それとも後ろ? ――射出口はある?」
「射出口がないなら弾は体内にとどまって傷口の栓の働きをしている、ならばそれを守るためにも後ろに倒れるべきだ」
「それに後ろに倒れるなら慣性の法則に従うだけでいいから楽よ。ショック状態にならないでね、そうすれば死ぬ可能性もある。なるべくリラックスして」
 と口早にアドバイスしてくるのが笑いどころ、ですね。

ならばと脳内赤ひげ(子供の頃飼っていた犬)を呼び出し戯れつつ、無事後ろに倒れて失神するシャーロック。

そこへ彼を探しあて、救急車を呼びつつ救命治療に入るジョン。冷静な銃撃犯は既に姿を消しています。
心肺停止状態となったシャーロックを、さらに脳内独房にいる脳内モリアーティが、脳内でも拘束衣を着せられた状態でかれをあざ笑い、悦に入ります。
「可哀想に、こんなふうにジョンを置いていくなんて。かれは悲しむだろうね?」
「!」
その瞬間、生還するシャーロックがもう、どれだけジョンを好きなのかと。
「えっ、ぼくの今の一言で生き返っちゃうわけ?」と叫ぶ脳内モリアーティが可哀想です。

何があってもきみたちの側に

陰鬱なストーリーの中のチャーミングなシーン、二つ目。
チャーミングと言うよりは感動ポイントなのですが、この銃撃事件はジョンにも大きな苦しみを与えます。
「なんだって言うんだ! なぜぼくはこんな目に遭う?」と叫ぶジョン。
それに対し、撃たれたシャーロック自ら、
「きみがそれを選んだからだ」と告げるところが良かった。「きみは医者なのに戦場へ行った。きみの周囲は危ないやつばかり、ぼくを筆頭として。きみは危険に、闇に惹かれるんだ。こうなったのはきみのせいだ、そういう相手を、そういう人生を、きみが選んだ」

ただの仲良し、親友、というだけであれば、相手を庇い、その苦しみから目をそらせてやればいいわけです。が、ジョンを信じ、ジョンを尊敬するシャーロックはここで敢えて、
「正面から向き合え、自分の力で乗り越えろ」と迫るのです。
これを聞き、いつもの自分たちのやり方でやろうじゃないかと腹を決めるジョン。
ベイカー街のシャーロックの居間の、いつの間にか復活している“自分の椅子”に腰かけ、依頼人の話に耳を傾け始めるジョン……!

この回は全編シャーロックとジョンの友情ストーリーなのですが、後半の自己犠牲やそれによる別離、のシーンより、わたしはこここそが物語の山場だろうと思います。ぐっと来ました。

ちっちゃなシャーロック

銃撃事件からしばらく後、退院して両親の家で静養するシャーロック。
弟と両親の揃うクリスマス……ということでなんとマイクロフトまで帰省してきます。
郊外のごくありふれた、ちんまりした家と愛情深い両親と温かいクリスマスが、これほど似合わない兄弟もないわけですが。
「まさかクリスマスを祝いに来たわけじゃないだろう?」といつもどおり嫌味を言ったら
「そうだとして何か悪いか?」と返され、心底驚愕した顔で兄を見るシャーロックの顔がおかしかった。
情報部から近々シャーロックに仕事の依頼があるが、断ってほしい、ロンドンにいてくれたほうが有用だし、危険な任務でお前を失いたくないからと告げるマイクロフト。兄弟の情愛っぽいことを意外な人から示されて、さらにさらに驚愕するシャーロック。

前回、カゲロウ男の謎を探るマインドパレスで脳内マイクロフトが出てきたので、案外シャーロックは論理の組み立て方とか情報の集め方などは、この兄から手ほどきを受けたのでは、と想像していたのですが、今回はその返しなのか、マイクロフトの心象風景に何度もちっちゃなシャーロックが登場してきて、天使のような外見とはいえないけど賢そうな顔の子役が演じていて、きゅんとさせられました。
兄からすると利かん気で、生意気で、負けず嫌いの賢い弟が、可愛かったのかもしれないなあ。

東風が吹き、ドラゴン(怪物)が現れる。

The East Wind takes us all in the end. It’s a story my brother told me when we were kids. The East Wind – this terrifying force that lays waste to all in its path.
It seeks out the unworthy ...... and plucks them from the Earth. That was generally me.

しかし、ふさわしい能力を持つ者は、剣を取りそれを退治する責務がある。

何かそんな正義の騎士を信じたり、赤ひげという名の犬を共にかわいがったり、そんな子供時代があったのだろうと。

後半、絶体絶命に陥るシャーロックを救うべく、自らヘリを操縦し登場するマイクロフト。その兄心にもかかわらず、ジョンのため思い切った挙に出るシャーロック。

「ああシャーロック、一体何をしたんだ――」

庇おうにももう、庇えない。
この驚愕と絶望の表情にも萌えました、今回のマイクロフト。

始まりの終わり

獄に落ちるか、さもなくば国家のため危険な任務につくか。兄の権力と愛を以てしても、どうしようもない立場に陥り、ジョンと離れ東欧へ向かうこととなるシャーロック。
見送りに来たジョンは、
「これからどうするんだ?」と問います。
「一種の潜入捜査だ、兄の見立てでは6ヶ月で終わる――マイクロフトが間違うことはない」
答えるシャーロック。お前が行けば6ヶ月で終わるだろう、お前自身の死によって。そうマイクロフトは警告していたのです。
死を覚悟したシャーロック。
永遠の別れかもしれない。万感の思いを伏せ、あえてさらりと握手するジョン。←ここ、シャーロックはいつもの手袋を外しています
2人の会話を、ただ傍らで聞くマイクロフト。
このシーンも良かったですね。

SHERLOCK: John, there’s something. I should say; I-I’ve meant to say always and then never have. Since it’s unlikely we’ll ever meet again, I might as well say it now. -- Sherlock is actually a girl’s name.
JOHN: It’s not.
SHERLOCK: It was worth a try.
JOHN: We’re not naming our daughter after you.

関係ないけどいまこの台詞(Sherlock is actually a girl’s name.)をググったら、
「イギリスのスラングで I love you. の意」と出ましたよ。
機上の人となるシャーロックと、その瞬間のジョン、シャーロック、それぞれの表情――。大いなる別れにかぶさるように、EDが流れ始めます。

とういうことで、いやうっかり騙されるところでした。「SHERLOCK」はこうでなくてはという大どんでん返し、真打ち登場。

Yes, I did miss you!

これシリーズ4にどのように続いているのでしょうか。“もう1人の兄弟”に起こったこととは、いったい何だったのでしょうか。
わかりませんが、とりあえず東風が吹きまくることはまちがいなし。
YouTubeにはもうファンによるトリック予想動画があふれていますが、その前に、「クリスマス特番」の劇場公開を観ることになるのかな。


1/6追記。「アップルドア」は実在の場所らしく、聖地巡礼した人のtwが出てきましたので貼りました。かっこいい建物ですよね……!
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2016.01.05 23:23 | dvd box 観たらめも | トラックバック(-) | コメント(-) |
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