LOVE! HEROES!

特撮番組全般、そして高岩成二さんと伊藤慎さんを応援します。

アドベンチャーゲーム好き・パズルゲーム好きのわたしですがあまりの新作の出なさにずっと飢餓状態にありまして、ところがたまたまマイクロソフトのショップで海外のゲームがダウンロードできることに気づき、それからすっかりはまってしまっています。
おかげで夏からずっと感想文さぼってる読了済みの本が結構たまっているのですが……しかしわたしにとっての初ルメートル、これがほんとうに衝撃でした。こんな怖い小説久々です。
著者本人のインタビューでも
「ヒッチコックが映画を作りたくなるような」ものを目指したとのことですが確かにサスペンスフルなその内容、皮肉でなおかつじわじわと真綿で首を絞めるような心理描写。あと、セバスチャン・ジャプリゾではないですがこの人の小説もネタバレしたら価値が半減してしまいそうな感じですね。
なので感想は控えめです。

死のドレスを花婿に(文春文庫)
ピエール・ルメートル著
吉田恒雄訳


知性、若さ、美貌、キャリアとそれに伴う報酬、愛情深く社会的地位のある夫。およそ人が人生に望めるほとんどのものを手にしていたヒロイン、ソフィー・デュゲ。
しかし本作冒頭の彼女は、既にそれらを失った、否、それ以上のものを失った、落ちぶれた女として登場します。

始まりはほんのちょっとしたこと。夫のために買った誕生日プレゼントを、当日まで隠しておいたつもりが、その隠し場所を忘れてしまったり。観劇の座席をとったはいいが日付を間違えていたり。そんなちょっとした勘違い、完璧な妻に似つかわしくない間の抜けたミスに苛立っていた夫も、度重なれば、だんだん彼女の知性や精神のコンディションを心配し始めます。
ならばと手帳に自分の行動の記録を取り始めるソフィーですが、しかしその手帳も、しばしばどこに置き忘れたかわからなくなってしまい、精神医に見せるという目的を果たせません。
そうこうするうちに起こった、仕事上の致命的な失敗。さらには新たに知己を得た友人は激しい中傷事件に巻き込まれ、改装中の家のインテリアはめちゃくちゃに荒らされ、それら数々の事件のなかでソフィーは自信をなくし、社会的な信用も夫の信頼をも失っていきます。仕事を理由にソフィーの待つ田舎の家に戻らなくなった夫は、やがて交通事故で重い怪我を得たあげく、死亡。夫の母も死亡。そして繰り返し見る悪夢。自分が、夫やその母の死に、責任があるかのような血塗られた夢――。

と、ソフィーの苦境がこれでもかこれでもかと書き込まれますが、それは単に物語の前提でしかなく、彼女はある連続殺人事件に巻き込まれ、その犯人として追われるようになります。逃亡者としての生活は非常に苦しいものでしょうが、それよりも苦しいのは、誰よりも彼女自身が、自分という女を信じられないこと。
自分が犯人なのかそうでないのか、それすら確信が持てず、ただ恐怖から逃げ続ける。自分を律し、ひとところにとどまらないことが習慣として身についてしまう。
こんな苦しい、恐ろしい人生ってあるでしょうか。
「事件の犯人として追われ、逃亡生活を送る主人公」というだけならもちろん、サスペンス小説としてはありふれた素材なんだろうと思うのですが、ストレスマックスの時に記憶がおかしくなるという経験はわたしにもあるので、ソフィーの記憶のあやふやさがほんとうに怖かった。加えて、逃亡生活の果てに出会った真実の恐ろしさ。詳しくは書きませんが、狂った内容がめんめんと淡淡と冷静に書き綴られていてこのあたりのルメートルの文章自体がもう怖い。わたしだったら完全に正気を失うか、いっそ逮捕してくれと出頭してしまいそうです。とりあえず「逃げる」「戦う」という発想があり、それを実行できるソフィーは、この点では非常に強かな女だと思います。あまりの怖さに一気読みですがわたしはやっぱり物語のヒロインにはなれそうもありません。

怖い怖いばかり書いていますがただのサスペンス小説ではなく、細部までよく読めば真実につながるヒントが前半に少しずつ仕込まれていてミステリという観点からも巧い。種明かし部分は(そんなことが実行可能なのかという疑問はおいといて)
「なるほどそうか!」といちいち納得しました。
但し、後味は悪いです。真実を知ったソフィーが何を選択するか、が後半の読みどころなのですが、わたしは納得できませんでしたので。倫理的にどうかじゃなく、わたしはやっぱり、ソフィーとは違うものを運命への復讐として求めるだろうと思うのです。
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2016.11.04 20:35 | read or die 近視de乱視 | トラックバック(-) | コメント(-) |
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