LOVE! HEROES!

特撮番組全般、そして高岩成二さんと伊藤慎さんを応援します。

相変わらず更新をさぼっていますがこの2~3日、突然暖かくなってきましたね。
ひっそりとバレンタイン作戦を遂行したり子供の頃から好きだったアーチストの訃報に衝撃を受けたりしていますが、そんななかでもこれはメモしておく必要があるだろうなというこの3作品。

悲しみのイレーヌ(文春文庫 著:ピエール・ルメートル 訳:橘明美 以下同)
その女アレックス
傷だらけのカミーユ
ルメートルのカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ長編3部作。
取りついたのが遅かったことが幸いし、正しい順序で読むことができました(前の事件の真相が後の作品で語られたり、それによって登場人物たちの人間関係が変わっていたりするため、作品そのものはそれぞれ単体で読めるものの、やはり発表順で読んだほうがよいのでは、と思います)。

シリーズものの警察小説にはある程度パターンがあり、主人公、もしくは狂言回しとなる人物が数名固定され、彼らを中心に様々な事件が語られていくのが普通です。
もちろん警察は組織として動くため、事件の進展によっては様々な点景――他の署から動員された応援の刑事や制服警官たちの地道 or 体当たりの捜査活動、テクニカルスタッフのバックアップ、判事や管理職たちの署内外の政治と広報、目撃証人や密告者の日常、犯罪者視点の気になる描写等々――も配され、複雑な構成になっていくことが多いのですが、物語としてはどうしても登場人物を絞り込んだほうがわかりやすい。そしてその人物造形が魅力的であるかどうかが、その作品が成功する大きな要因となってくるものです。

その意味でヴェルーヴェンチームの設定は、たいへんに成功していると言っていい。キャラが立っています。

名家の出で、常に控えめかつ抑制のきいた態度でありながらにじみ出る気品と教養、ありとあらゆる分野で確認できる深い造詣、そして途方もない財力。過不足ない仕事ぶりや被害者・証人たちの口を開かせる魅力でヴェルーヴェンの信頼を勝ち得、登場の度ごとにその出で立ちがこと細かに描写される優等生、ルイ。

そのルイ同様優秀な成績で警察学校を卒業し、特に犯人を追い立てる端的な手腕と猟犬のような勘に優れ、自堕落な生活態度と度外れた放蕩ぶりが男には愛嬌、女には独特の色気となっているが、ヴェルーヴェンに将来を危ぶませる問題児でもあるもう1人の若手、ジャン・クロード・マレヴァル。

一方、ヴェルーヴェン同様ベテランで、特に根気のいる地道な作業においては誰にも真似のできない成果をあげ、ひそかにヴェルーヴェンの尊敬を得るほどでありながら、ジェイムズくんもかくやと思われるせこい吝嗇ぶりばかりが目立ち、顔つきからして貧相なアルマン。このカシオミニを賭けてもいい。

彼らをまとめるカミーユ・ヴェルーヴェン警部はもちろんパリ警視庁きっての実績と手腕の持ち主ながら、第一の特徴は見る者をぎょっと驚かせる際立った低身長。それは芸術家であったかれの母、モー・ヴェルーヴェンが妊娠中も放埒かつ不摂生な生活を送ってきたことが原因であり(少なくともそうヴェルーヴェンは信じており)、そんな母への憧憬と愛憎入り混じった思いが女性たちを惹きつける不思議な陰影になっていなくもない、みたいな人物。母の影響か、美術方面で優れたセンスを発揮しているのもポイント高い。

年齢も外見もいろいろふぞろいなこの4人を中心に様々な事件が解決されていくわけだな、ふむふむ、と思っていたわけです。
捜査を通じ互いへの思いやり、友情や絆、部下への父性愛とそれへの反発、もしくは敬意も浮かび上がってきてなかなかに萌えたり燃えたりします。
しかしこれが一筋縄ではいかない。
その一筋縄でいかなさっぷりが作品ごとに違うというからまたすごい。



というわけで第一の事件はルイの
「とんでもないことが……残虐で……とにかく、こんなのは見たことありません」というあやふやな一報からスタートします。凄惨、かつ手際よく、計画的に実行された殺人事件。狂人の仕業かとも思えたその異常な現場は、やがて著名な推理小説の“見立て”であると判明。すぐに過去の未解決事件が洗い出されていきます。
連続する見立て殺人と犯人による“署名”、センセーショナルな報道合戦、暗号広告を通じての犯人との対話、何故か漏洩し続ける捜査情報……これだけでじゅうぶん面白い、ミステリファンであればあるほど面白い(このせいでシューヴァル&ヴァールーの「ロゼアンナ」を本棚から発掘してきました)のに、――終盤も終盤、第一部の終わりで今まで読んできた世界が突如、崩壊します。それに続く短い第二部、そしてエピローグは、呆然としながら読み進めることになりました。
構造もトリックもぜんぜん違うけど、この足下をすくわれるような感覚は、夢野久作の「瓶詰地獄」っぽかった。



冒頭から美しい女、アレックスのパリでの日常が描かれ、すぐに彼女が突然、凄まじい暴力に襲われる様が描写されます。誘拐・監禁され、受けた傷の痛みにうめき、死の予感にもがくヒロイン。脆い宙吊りの檻、血のにおいに誘い出されたネズミがたかり、下は冷たいコンクリートの床。
前作の事件で受けた痛手により、シリアスな事件から遠ざかっていたヴェルーヴェンは、この事件をかれのリハビリにちょうどよいと思ったらしい上司、ル・グエンに言葉巧みに担ぎ出されてしまいますが――。
アレックスの苦闘と、ヴェルーヴェンたちの遅々として進まない捜査の状況が交錯する様は実にスリリングで(とくにネズミ!)、ああこれはスリラー小説なんだなと思っていたら……第二部は加害者の側から淡々と描かれる連続殺人の記録、続く第三部はさらにその裏にある真実をえぐりだしたヴェルーヴェンたちの推理と仮説。読み返してみれば冒頭の描写から伏線だったのだなあと感嘆しつつ、これもまた二転三転する話の進展に驚愕するしかありません。目まぐるしく変わる視点の効果は、同じ作者の「死のドレスを花婿に」に似ているかもしれません。ヒロインのタフさからずっと「死のドレス」を思い出しつつ読んでいたのですが読み終えてみると、構造からしてそうなのかも、と。
余談ながら小さいがゆえに中の人間により苦痛を与え得る、それ自体が拷問具でもある檻の名称が“少女”というくだりは厨二心がそそられました。



これは警察ものや探偵もので時々変則技として用いられる、「主人公自身の事件」。まだ関係して日の浅いヴェルーヴェンの恋人、アンヌがある日商店街の強盗事件に遭遇し、巻き込まれ――しかし犯人の行動が、アンヌの殺害を意図しているように思えて仕方がないヴェルーヴェン。何かを目撃したことによる口封じだろうか、それとも……?
アンヌの名前自体は「アレックス」にも登場しており、それだけに彼女が暴行を受ける様を、防犯カメラの映像で確認してしまうヴェルーヴェン、というところではっとしてしまいます。
彼女を守るため、そして彼女に代わり犯人に復讐するため、警官としてついてはならない嘘、犯してはならない違反行為を重ねていく主人公。
そんな、自らを窮地に追いやっていくようなかれの愚行を案じつつも、ただ黙して前髪をかきあげ、その指示に従うルイ。
上司としてヴェルーヴェンを庇いたいと願い、しかしヴェルーヴェン自身がそれに非協力的であるためおのれの無力を悲しむしかないル・グエン。3部作の終焉にふさわしい哀切な基調、わずか3日間での急転直下、そして訪れた訣別。
こんな悲しいラストは嫌だ! とルメートルに抗議したいのですが、それでもヴェルーヴェンが母、モーへの愛情を認められたあたりは救いでもあるのかなあ。
とりあえずこのちっちゃい警部の活躍をもっと読みたいので、未訳の短編の発刊を心待ちにしています。

ぜんぜん関係ないのですが、わたしはカミーユ・クローデルのせいでカミーユと言えば女性の名前と思い込んでおり、某アニメでもそういう描写があったっぽいのですが、本作の中では
「カミーユなんてありふれた名前だ、男でも女でもあるし」とあったので中性的な名前と思っていればいいのかな?
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2017.02.18 18:41 | read or die 近視de乱視 | トラックバック(-) | コメント(-) |
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