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LOVE! HEROES!

特撮番組全般、そして高岩成二さんと伊藤慎さんを応援します。

アガサ・クリスティという人は多作なだけでなく常に読者に驚きを届けようとした作家で、革新的なトリックや意表を突く展開で世間を賑わし、時にはあまりのどんでん返しっぷりに
「こんなのありなのか!?」というフェア・アンフェア論争をも巻き起こした人。
加えて自身の経験から異国を舞台としたエキゾチックな作品も多く、今回の映画の原作、「オリエント急行の殺人」もそうした一作として何度も映像化・舞台化されています。
要はミステリに興味のある人なら大体の人が、読んだ読んでいないにかかわらず、どこかでその筋立てやトリックを耳にしているであろう古典中の古典、基本中の基本といえる作品なわけで、映画を観るわたしの関心事も、
「今度はどんな演出なのかな?」という点にありました。

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写真はゴディバがタイアップで売り出した口ひげチョコ。写っていませんが楕円形の箱を止めるスリーブ? もオリエント急行の意匠で素敵です。順番が「平成ジェネレーションズ」と前後してしまいましたが12/8に鑑賞。
以下感想文。できるだけネタバレ無しで書いてみます。

あらすじ

世界的に高名な探偵、エルキュール・ポワロは、エルサレムで依頼された事件を鮮やかに解決した後、のんびり休暇を楽しもうと思いつきます。しかし、そこへ新たな依頼が舞い込み、しぶしぶロンドンへ戻る羽目に。
ために急遽、イスタンブールから乗り込んだオリエント急行の車中、今度は旅客の1人が刺殺体として発見され――。

眼福な映画

この映画、当時の富裕層に人気だった実在の豪華寝台列車、「オリエント急行」が主人公とも言える撮りっぷり。
洗練されたアールデコ様式の客車デザイン、清潔で窓が大きく取られた食堂車や重厚なしつらえのコンパートメントと、再現されたそのディテールを舐めるように撮影しています。優美な内装に比して物悲しい汽笛、大自然の中を突き進む力強い車輪、旅情をそそられます。というより、てつ心に刺さります。
こういう旅行をしてみたいのですよねえ。「月館の殺人」なんかも大好き(ストーリーは全然違いますがヒロインが豪華寝台列車の旅に誘われます)です。ただ豪華客船の旅もそうですが、この時代の列車って旅行しながら相客との社交もポイントになってくるので実際にはハードルが高いのだろうな。
とくにポワロが席を得る一等車では、相客も当然のごとく、貴族や外交官、教授や実業家といったセレブ層ばかりであり、それぞれの衣装や持ち物、身のこなしも気になります。
風景、車両、人々の出で立ち、何もかもが美しく、一言で言って眼福。

さらには個々の登場人物を演じる俳優がまた、どっちを向いても名優ばかり。
列車はこの場合動く密室であり、事件が起こった際ポワロは
「犯人はこのなかにいます」とぬかりなく全員を容疑者扱いするのですが、まさに全員がそれにふさわしい挙動です。要は、誰も彼もが怪しく、といって際立って怪しい人物はいないというほどのよさ。

何回も映像化されている作品というのは時々、「大胆な改変」が加えられるものですがこの映画ではそのようなことはありません。ちゃんと赤いガウンも出てきます。
逆に、「極めて原作に忠実」とも言い難く、ところどころ、ちょっとしたアレンジで変化がつけられています。要するに、脚本的には特に見るべきところはなく、後半の謎解きのスリルもほぼない(ミステリとしては致命的かも? 尤も原作がしっかりしているだけに、じゅうぶん感動的な仕上がりではあります)わけなのですが、そのぶん映像美が圧巻。
ちなみにポワロの口ひげは今までになく威風堂々とした立派なものになっていますが、これはむしろ原作通りなのだそうです。

カメラワークも凝っています

目立つのは長回しのシーンだと思いますが、わたしが面白いと思ったのは事件が発覚するところ。
被害者のコンパートメントのドアを叩く者がいて、その物音に、ポワロが自分のコンパートメントから
「どうした」と顔を出す、かくかくしかじかでこの部屋の客が朝食の時間になっても出てこないのだというシーン、要は皆が被害者の部屋の前の廊下で話しているのですが、それを真上から撮影しています(セットの屋根を取り外して撮った?)。
誰も彼も頭の天辺しか見えませんが、それによって人物の動きが図像化されたように見え、ミステリにありがちな見取り図のようで面白い。
ミステリではいわゆる神の視点というやつが意識的に用いられますが、映画もそれを意識してるのかなという感じ。
別のシーンでは最後の晩餐風の構図もあったりして、本作の「法と正義」というテーマに宗教的視点をからめているのかも。

なお、ポワロと言えば自惚れたベルギー人の小男、ご自慢の「灰色の脳細胞」は確かに素晴らしい働きをしますが、それを臆面もなくひけらかすあたりかなり周囲の不興をかっており、映像では悪目立ちの滑稽さを感じさせる描写が行われるのが普通です。
卵へのこだわりなど、この映画でもその滑稽さが失われているわけではありませんが、どちらかといえば本作中のポワロはかっこいいヒーロー。細身ですらりとした、威厳のある姿。そのせいか尺としては少ないながらアクションシーンもあります。尤も、アクションと言ってもポワロのそれは荒事ではなく、柔よく剛を制す系。相手の勢いを活かし、最小限の動きで優雅にとどめを刺す、東洋の武道のような動きです。杖術使いとは面白いアイディアでした。

「法と正義」というテーマで言うと、今回ポワロの人物造形がヒロイックすぎて、そのために最終的なかれの決断も、とてもあやうく思えてしまいます。自信家に見せていて、内面は揺れているのですよね。こういうところが「カーテン」の悲劇につながっていくのではないか? と不吉です。

後は小ネタ。

・アクションと言えば、ルドルフ伯爵にセルゲイ・ボルーニンが配役されており、一瞬だけですが華麗な一撃がありました。
・ややネタバレですが、このお話は被害者が悪辣すぎて、そのぶん犯人側への同情が集まってしまうパターン。そんな悪人被害者を演じるジョニー・デップがよかった。残酷で、悪辣で、でもなにか愛嬌がある感じです。2年くらい前に「ブラック・スキャンダル」で実在の犯罪者を演じていましたがあれよりだいぶ可愛げがある。
「脅迫されている。守って欲しい」とポワロに依頼してきた際、ポワロがあまりにもすげなくするので気の毒になりました。そういう人が実は、という演出が好き。
・逆に、上手いのになんだかなと思ったのはミシェル・ファイファーで、浮気でさばけた未亡人という役どころなのに表情に人生の苦労がにじみ出てる。いや実際ハバード夫人は苦労している人なのですが、それを押し隠して極楽とんぼのごとく陽気に振る舞っているシーンなのでもう少しなんとか、と。



原作の表紙、今度の映画に合わせて変えたんですね。
ついでに「月館の殺人」も。


同日追記。朝起きて原作などの表紙を紹介したいと思い貼りました。
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2017.12.10 03:32 | dvd box 観たらめも | トラックバック(-) | コメント(-) |
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