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特撮番組全般、そして高岩成二さんと伊藤慎さんを応援します。

三谷幸喜×アガサ・クリスティ×野村萬斎第二弾は「アクロイド殺し」!

黒井戸殺し

地上波ドラマとしてはなんと贅沢な布陣。制作発表を聞いてからずっと楽しみにしていました。
あまりにも作品が有名すぎて犯人はとっくにわかってしまっているのに、冷酷にして卑劣な殺人、機を見るや瞬時にトリックを計算し実行するその頭のよさを、原作に忠実に再現した映像。
にもかかわらず、実に楽しんで観てしまいました。

無理やり日本の話にしているためアクロイド=黒井戸だのハモンド=鱧頭だの人物名がなかなか厳しいのは前回同様でご愛嬌。
もちろんポワロは「勝呂」です! 本人が気取って何度も1人称に使います。

以前「オリエント急行」の映画感想で、
「クリスティはアンフェアだという論争が起こったこともある」みたいなことを書きましたが、それはまさに今回の原作、「アクロイド殺し」を指してのものでした。映像化によって、あの
「やられた! 騙された!」という驚きはかなり緩和されてしまっていましたが、ラストの勝呂の表情が圧巻すぎて、ああこれこそ映像の力、演技の力だなあと息を呑むばかりでした。
以下、言わずもがなのネタバレ感想文。
例によって2晩連続でやるのかなあと思っていたら一気に3時間でやっちゃいましたね。
2晩だと見逃したりした時悔しいので良い工夫だと思います。

相変わらずのコメディタッチ

野村萬斎の怪演は前回通り冴え渡っているのですが、今回良かったと思うのが柴医師を演じた大泉洋!
あの時代のドクターといえば先生様様、上流人士のなかでも大威張りのポジションだったはずですし、現に黒井戸家の使用人たちへ指示を下す様も堂に入ったものなのですが、それを、田舎の村に密着した、庶民的な人柄と矛盾なく演じています。
かれと野村萬斎、あるいはキレッキレの斉藤由貴、あと藤井隆……といった具合に、いちいち会話のテンポがおかしくておかしくてたまらず、素人探偵よろしく捜査につきあわされては
「あなたがわたしのワトソンです」と勝呂におだてられ、照れながら
「実は手記を書いています!」と原稿用紙の綴りを差し出すところなどほんとうに可愛らしくて、ほとんどこの人のおかげでドラマ全体の明るく楽しいトーンが形成されています。

もちろん他のキャストも全員名演で、堅苦しいようでいて内緒でディクタフォンなる新製品を買って他人に自慢する一面もあり、厳しいようでいて生さぬ仲の子に財産の殆どを残す、愛嬌たっぷり人情味たっぷりの富豪、黒井戸こと遠藤憲一も可愛いし、誰も彼もが怪しい使用人に客人、姻戚たちに加え、この時代の怪しいやつ代表、お決まりの謎の復員兵まで! 一瞬だけ横溝正史かと思いました。
向井理さんはアガサ・クリスティによく出てくる魅力的な若い男性がお上手だと思っていましたが今回は甘やかされた、気弱なお坊ちゃんになっててこれも可愛い。
農村の風景も美しく、四角いカボチャにはが生え、見どころはたっぷりです。

何の気まぐれか田舎の村にひっこんで、カボチャ栽培に勤しむ勝呂に、ふいに持ち込まれた事件。
それは当地でも資産家で知られる黒井戸氏の殺害事件でした。黒井戸の美しい姪に正式に依頼され、また田舎刑事にも
「ご名声はかねがね」と言わんばかりに持ち上げられ、まんざらでもなく灰色の脳細胞を働かせ始めます。
死体発見に居合わせた医者、柴を強引に助手代わりとしてこきつかい――。

小説で読んだときは驚きでいっぱいでしたが、こうしてドラマで見ると、
「ああここなんで誰も突っ込まないんだ!?」というあらがありますね(もちろん勝呂は見落としていませんが警察も誰も話題にしない)。その代わり、最初に書いたようなコメディタッチが面白く、たとえば死体発見直時、
「ドアを蹴破れ! わたしが責任を持つ」と柴に言われて
「一度やってみたかったんです!」とノリノリの執事とか、ドアが開けばすぐ目に飛び込んでくる位置の黒井戸の刺殺死体に対し、
「旦那様!」とかなんとか誰か駆け寄る度に
「ああ、手は触れず、現場は警察がくるまでそのままにしたほうが」
「あ、そうでしたね、こういう場合はそうなんですよね」
 と君たちはみんなミステリファンなのかと問いたくなる会話を3回繰り返し(実は結構意味深なシーン)とか、文章だと伝わりませんけど妙におかしくて、これで最後どうけりをつけるつもりだろうなと思いつつもどんどん引き込まれていきました。

名探偵、皆を集めてさてといい

作中でも客人が引用したこの川柳は、この時代にはもうあったんでしょうか。

警察への告発の前に1日の猶予をおき、関係者一同を前に謎解きするのは、犯人に自供を促すため。
「わたしの言う通りにする以外、あなたには道がない」と説得するため。しかし、実際にはもう一つ道があります。それは、すべてが発覚する前に、勝呂の口を封じるという選択。
関係者たちと別れ、1人居間へ忍び寄る夕闇のなかで、顔をあげる勝呂。
そのまままんじりともせず迎えた翌朝、犯人が自分の勧めた通りの道をとったことを悟る勝呂。
この2つのシーンの表情が、心に残りました。
本件でも結局、オリエント急行事件同様、法の観点からすると逸脱しまくった判断を、勝呂はしたわけです。しかし今回のそれは、単なる逸脱を超え、悪魔の囁きであったかもしれません。それを悟り、そのうえで、毒喰らわば皿までと覚悟した表情。そんなふうに見えました。
この顔を見るための3時間だったのかもしれません。


Blind stenographer using dictaphone (LOC) / The Library of Congress


ちなみにディクタフォンは「ネロ・ウルフシリーズ」なんかによく出てくるもので、経営者が思いつきや部下への指示、手紙の口述などを吹き込んだものを、ステノグラファーがタイプで起こし、正式な文書にするという使い方が多かったので、わたしの中では上の写真のようなイメージです。黒井戸さんは遊びで買ったっぽいですが(だって秘書に内緒)。
同日追記。最近誤変換が多いので慌てて修正。
ネットで話題になっている「カナは気づいていたのでは?」については、わたしはわかりかねますが、善良な女性のようなので気づいていたらもっと直截な行動(勝呂に相談するとか)をとったのではないかと思います。妙な謎掛けなどではなく。
「久しぶりのカレー」というセリフは単に病状の進行を示すものと思われ、聞かされた登場人物同様、わたしも愕然としました。
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2018.04.15 00:53 | dvd box 観たらめも | トラックバック(-) | コメント(-) |
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