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LOVE! HEROES!

特撮番組全般、そして高岩成二さんと伊藤慎さんを応援します。

映画の冒頭とラストで、同じ一つのモノローグが繰り返されます。
うろおぼえですが、

「7000rpm(エンジン回転数:毎分7000回転)は特別だ――そこを過ぎれば、
車体は重みを、存在を失い、ただそこに残された魂と肉体だけが時空を駆ける。
その時、わたしに問う声が聞こえるのだ、『お前は何者なのだ』と」

 的な。限界を超え、レッドゾーンまでアクセルを踏みこんだ果てに訪れる、特別な感覚。これを、わたしははじめ、<ル・マンを制した唯一の米国人>との名声を武器に、今や気鋭のカーデザイナーにしてチャーミングなセールスマンとして成功を収めつつあるキャロル・シェルビーの、胸に残る苦い憧憬を語る言葉だと思っていました。
が、最後まで観ると、もう1人の主人公、ただひたすら車を愛した純粋な男、ケン・マイルズが到達した幸福を語るロマンチックな言葉でもあるとわかってきます。

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Photo by Markus Spiske on Unsplash

この2人の主人公の、短い友情を語る物語。以下の感想文は例によってあまりネタバレとか気にしていません。
リスクテイカーたち

自分自身が日頃臆病でリスクを取らない生き方をしているので、なおさら本作に登場する、危険なシーンにはぞくぞくします。
そしてリスクをものともせず偉業を成し遂げた人々の魅力。

そもそものフォード・モーター総帥、ヘンリー・フォード2世からして
「ル・マンでフェラーリを倒す」などと言い出す博打打ち。それも数年後、数十年後の話ではなく3ヶ月後に迫ったレースで。
資本提携を持ちかけた相手、エンツォ・フェラーリから
「貴社は醜い工場で醜い車でも作っていろ」と侮辱されたからとはいえ、巨額の費用を承知でこんなことを言うのですから男の意地とはたいへんなものです。
フォード・モーター創業者であるヘンリー・フォード(1世)は大量生産システムを考案し、なおかつ工場労働者の給与を大幅に引き上げることで、それまで一部の富裕層のものだった自動車を全世界に普及させ、モータリゼーションを作り出した非常に偉大な人物です。それと比較され、
「所詮2世」とエンツォに侮られたことも、かれの逆鱗に触れたのでしょう。
シェルビーらが完成させたフォードGT40に試乗し、あまりのスピードに恐怖した後、爽快感に哄笑し、なおかつ、
「親父に見せたかった。乗せたかった……」と泣き笑いの表情になったりする、愛すべき人物像。

そのヘンリー・フォード2世に対し、売上不振の責任を追求されそうになりながら、ぬけぬけと
「若い層にアピールするためにはレースで勝ってダサいイメージを払拭しなければ。ナスカーなんかじゃなく、全世界にアピールするル・マンで」と提案するマーケティング責任者の、リー・アイアコッカも博打打ち。そのためのフェラーリとの交渉は失敗しますが、それにより、却ってヘンリー・フォード2世が本気になってしまうという幸運にも恵まれています。

そのリー・アイアコッカが口説きに行くのが<ル・マンを制した唯一の米国人>、キャロル・シェルビー。優秀なレーシングドライバーでありながら、ドクター・ストップにより、今は実業の世界に身を転じています。アイアコッカの話を笑い飛ばしながらも、資金は青天井、人選も一任すると言われ、不完全燃焼だったかれの車愛に火がついてしまい(愛嬌ある人柄とレースで鍛えた度胸がセールスに直結し、こんな危ない話に乗らずともそこそこ成功していたのですから、やっぱり愛だろうと思うわけです)……。
元レーシングドライバーですからリスクに強いのは初めから証明されていますが、フォードの新車発表会へ乗り込むチャーター機でも
「戦争中はB29に乗ってたんだ。操縦させてくれ」と機長にせがんで荒っぽい着陸を見せたり、敗戦の辞を聞こうとするフォード2世へ
「確かに我々はコーナーで遅かった。しかしストレートのスピードはエンツォの心胆を寒からしめましたね! いや、礼には及びませんとも(*´ω`*)」と先制したり、推しドライバーであるケン・マイルズをチームから外そうという動きがあると、相手の口を封じた上で
「ではレースで決めましょう。デイトナでケンが優勝すればフランス(ル・マン)にも連れて行く。ケンが負ければ、わたしの会社、シェルビー・アメリカンを差し上げましょう」と持ちかけたり。
この口八丁手八丁ぶり、何をしても成功する人だったのでしょうが、車に魅入られてしまったのですね。

そしてレーサー兼テストドライバー兼エンジニアのケン・マイルズ。ピットでは紅茶。車を諦め実直に生きようなどと考えていた頃は
「太った年よりになるんだ、バラの栽培なんかして」と言っていた英国人。手弁当で様々なレースに出る傍ら、車の整備工場を営んでいますが経営は思わしくなく、相手が客だろうがスポンサーだろうが何の忖度もなく、ただひたすらスピードにのみ夢中。
国税局に整備工場を差し押さえられるという窮地にあって、シェルビーに高い報酬を約束され、やる気になります。愛する妻子に豊かな生活をさせながら、速い車づくりにだけ没頭していればいい(偉い人のご機嫌取りはシェルビーがやる)というのですから当然です。
純粋なかれは、開発中もレースでも車との対話を楽しんでおり、それさえできれば幸せなのです。謀略により名誉を<盗まれた>後も、そのことに憤るのはシェルビーであって当のマイルズではありません。
かれにももちろん名誉欲はあるわけですが、どちらかというと記録などより、レースの後エンツォ・フェラーリから向けられた敬意のほうに満足するタイプ。言い換えれば<己を知る者のために死ぬ>タイプです。
50~60年代のまだ脆弱な車体、レーサーの健康なんざ知ったこっちゃないといわんばかりの荒っぽいルール、それらを反映したレースシーンのあれこれも、車を信じ、己の腕を信じているかれにはリスクと捉えられていなかったのでは……と思います。

風の中の昴

この物語は実話に基づいており、レースの結果など、調べれば事前にわかるものなのですが、とくに情報を入れず予告だけで面白そうと見に行きました。そのせいで、「プロジェクトX」のように、誰かのリーダーシップのもとフォード社員たちが一致団結して成功をつかむ熱いストーリーなんだろうと思っていたのですが、さすが実話、そこまで美しい終わりではありません。

一例を挙げれば、シェルビーとマイルズのパートナーシップに、当のフォードが横槍を何度となく入れてくる展開。
「フェラーリに勝つのが目的じゃなかったのか? 勝てなくてもいいのか?」とちょっと呆れてしまうほど、どうでもいい、くだらない理由で足を引っ張られ続ける2人。
物語上フォードの副社長が1人で悪役になっていましたが、おそらくかれはフォードが当時陥っていた大企業病を代表する存在として描かれていたのでしょう。

周囲への配慮に欠けるマイルズは、チームワークは不得手。フォードのような企業において、誰かの反感をかうことは当然あっただろうと思います。そして誰かがあいつは気に入らない、排斥しよう、と思いつけば、会長であり総帥であるヘンリー・フォード2世ですら、その動きを止めることはできなかったのです。
それを端的に赤い書類フォルダーに託して喝破し、
「チームでは勝てません、全員が賛同する意見はよい意見ではない。真に才能ある者に委ねるべきです」と最後まで抗い続けたシェルビー。
シェルビーの苦悩を見て、最後の最後に、フォード社のくだらない命令を聞いてやろうかという気になるマイルズ。
2人の絆が美しく描かれている(ピットに立ちながらレース展開を観ているシェルビーが「まだだ、まだ抑えて……今だ」とつぶやくタイミングと、マイルズがレッドゾーンまで踏み込むタイミングが一致しており、レースを知る者同士のシンクロニシティが度々起こる)だけに、残念な展開でもありました。
これが仮想敵であるフェラーリからの横槍なら、シェルビーもやり返して終わりなわけで。実際そのようなシーンもありましたし、だからといって後はひかなかった。

期待以上に熱いシーンが続くなか、諸々、完全フィクションだったらこうはしないだろうなあ、とほろ苦い後味を残す映画です。

パンフレットによれば(カーディーラーのパンフのような高級感!)、現実のケン・マイルズはとりわけ著名なドライバーではなく、しかしレーシングドライバーの父を持つ出演者が
「父はいつもマイルズの話をしていました」と語る通り、長らく<知る人ぞ知る>存在だったのも、半分は栄光なき天才・マイルズの超然とした性格のせいで、半分はこういう横槍のせいだろうなあと思います。

正しいクライマックス

映画の白眉・レースシーンの興奮がラストの30分を占める構成のため、途中から思いっきり身を乗り出して観てしまいました。
音がすごい。音ほんとにすごい。あと、再現性がすごい。確かに昔のレースはF1だろうがル・マンだろうがインディだろうが、こんなふうなクラッシュの連続でした。確かに昔のル・マンはこんなふうに車までダッシュしていました。
マイルズの家族がテレビを観て応援するシーン、モノクロの映像はおそらく実際のレースの模様を納めたフィルムを用いているのでしょう。
人間ドラマに関心がない方が、この30分のためだけに映画館に行っても、じゅうぶん元がとれる映画だと思います。
しかしマイルズを演じたクリスチャン・ベールの、外見の寄せ方はんぱない……
そしてあれほどのレーサーでも、ブチ切れた奥さんの運転する車は怖いらしく
「スピード。スピード落とそう? な? ほらブレーキだよブレーキ!」ってなってるところも面白い。ドライビングテクニックが信頼できないんだなw
マジか……大人げない&面白い。
同日追記。映画を観てきたので晴れてネタバレ有りの解説記事をいくつか読んでいたら、
・副社長実はいい人だし足は引っ張ったもののマイルズが優勝すると思ってた
・エンツォは会場にはいなかった
ということを知りました。ただの間の抜けた失敗だったのなら、そのほうが後味よかったのになぜ副社長のせいにしたのか……そのフォローのためにマイルズに敬意を送るエンツォ、というフィクションを盛り込んだということなのでしょうが、フォローしきれてない……
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