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少しずつ解像度があがっていく「敵」のねらい――舞台刀剣乱舞 綺伝 いくさ世の徒花 5/1マチネ参戦

晴天かつ爽やかな初夏の一日になると思い一応長袖ながら薄着で出かけたらどんどん冷え込んできてびっくり。にっかり青江役・佐野真白さんが
「大阪は寒い」と書いていらしたのを読めばよかった。
本来なら「維伝」のあと、そして「天伝」の前、すなわち2年前に上演されるはずだった「綺伝」リベンジ公演に行ってきました。

綺伝新歌舞伎座
駅に直結した会場なので雨に降られずにすみました

本公演はコロナの影響で当時取りやめになったとはいえ、
「ステ本丸の物語(報告書)を別の本丸の歌仙たちが読む」という設定で急遽書き換えられた「科白劇」が別途上演されており、それをわたしも千穐楽配信&Blu-rayで観て筋書きは承知していたのですが、それだけに今回は細かな差異が楽しめました。
重要なものとしては遡行軍、というより黒田官兵衛の狙いが言明されるとか。
さほど重要でないものとしては、歌仙の嗜む「歌」と篭手切がれっすんしている「歌」について、前回は歌仙が同じものかと勘違いして篭手切が説明に困っていたのに、今回は歌仙が「きみの歌とぼくの歌は違うんだろう?」と予防線を引くと篭手切が「案外通ずるものがあるかもですよハッハッハ」と言い、歌仙も「ふむ。そうかもしれないハッハッハ」と受け入れるとか。

それらの差異は科白劇に加工するにあたり元の脚本から削除された部分が復活したのか、それとも既にこの物語を知っている観客に向け、新たにつけ加えられた要素なのか、それは今一つわたしにはわからないことなのですが。
変更された上映順すら利用しようとしてるんじゃないか? と制作側の意図を勘ぐってしまうのです。諸々重ねて観続けてきて、本シリーズの解釈など自分の手にはあまるなとしみじみ感じています。

ので、以下は相変わらずネタバレとか関知しないただの感想文。

綺伝のぼり
俳優名ののぼりが立っていていかにも歌舞伎座という感じ

好き! 新歌舞伎座

初めての刀ステがステージアラウンド東京だったのでわたしの感覚がおかしいとは思うのですが、大阪の新歌舞伎座、最初の印象は
「コンパクトで見やすい!」でした。

わたしの席はいわゆる「ドブ席」(1階前方、但し花道より下手側・外周寄り)で、
・俳優が花道を通るときは内側を向くので背中を向けられてしまう席
・座席から舞台を見る際、花道で視界が遮られ見通しが悪い席
というふうに諸々のガイドには書かれてあったのです。舞台全体は見えないので初見には向かないがその演目に精通している慣れた観客が、普段めったに見られない俳優の背中側の演技を楽しむにはいい、みたいな。
が、実際に座ってみると花道よりぐっと高さがあり、隣にほかの観客がいらっしゃらないぶん、そのまま舞台上まで視界が開けてよかったです。
なんとなく、パリコレの通路脇みたいに足元から見上げるイメージがあったんですよね。それだと舞台の方は見えないなあと覚悟していたのですが。

蓋を開けてみれば、探索のため熊本の城下を巡る男士たち、それを阻止せんとする遡行軍やきりしたん大名らが花道を駆け抜ける度、古今様の長い衣装の裾をはためかせる風を感じたり、木の床を荒々しく踏む振動でこちらの座席が少し揺れるほどの臨場感。
また、花道上にも小さなせり(すっぽん)があるのですが、これがふと気づくとくろぐろと奈落への口を開けていて、演者の皆さんが近くを通る度どきどきしたり。
「悲伝」で三日月宗近の登場に明治座のすっぽんを使った演出家なので、今回もこのすっぽん、何か意味があるのかなあと勘ぐったり(今回は2度使われました)。

振動とはまた違いますが、音響も素晴らしかった。みんな声がいい。顔もいいけど声がいい。あの迫力ある殺陣の連続の中で、みんな声をはりつつ、それでも一つ一つの台詞がはっきり聞き取れます。しかもそこに感情がしっかりとのっていて、芝居を妨げない。音、声、大事だと思うんですよ。生だと熱演のあまり声が割れてしまうことがあるけど、今回そんな人は一人もいらっしゃいませんでした。どんどん物語に引き込まれていきました。
最後は万雷の拍手。カーテンコールには何度も応じてくださいました。何回あったかな……? 記憶が不確かですが4回くらいあったような気がします。スタンディングオベーションになったのが3回めあたりかな。

刃以て語らおう

「科白劇」での抑制がここにきて弾けでもしたのか、と思うくらい殺陣はすごかった。まあステの殺陣はいつもすごいのですが。

全員素晴らしかったので誰がどうと言い難いのですが、役柄、山姥切長義の練度がめちゃくちゃに上がっています。「慈伝」がレベル1、そこから「科白劇」の長義が特60~70くらいとして、今回はカンストではと。
「慈伝」の山姥切国広に、まさに伯仲せんとするかのような激情。黒田孝高への抑えきれない嫌悪と、国広への愛憎半ばする煮えたぎるような想い。自分が苦戦するのではなどという考えはかけらも浮かばないという絶対の自信。堂々たる演技でした。

主役である歌仙はもともと隊長だけあってレベルは高かったのでしょうが、力強いきっぱりとした殺陣はイメージ通り。真剣必殺後はインナーから覗く肩から背中にかけての筋肉の盛り上がりが前述の通りドブ席からは非常によく見えて眼福でした。ガラシャに向ける情愛、忠興の不器用な生き様と、2人に起こった悲劇への嘆き。「義伝」と共通する忠興の台詞から、受けた衝撃。長義とは対象的に、落ち着いていながら感情の起伏が殺陣の中にもはっきりと現れる、濃やかな演技でした。

亀甲・青江・篭手切に関してはゲームではあまりつよい印象を受けていなかったのが、「科白劇」でこんなに魅力的なキャラだったのか、と驚いたのですが、それって俳優さんがそれぞれにご自分の役を深く掘り下げてくださったおかげだと思っていて、今回はまたその驚きが殺陣にまで広がっていて、それぞれにおっとりと可愛らしい言動をするキャラばかりなのにこんな好戦的な表情を、獰猛な戦いぶりを見せるなんてと目を奪われます。
刀剣男士一振り一振りに一対多の大立ち回りの見せ場がある上に、そう広くない舞台に零れ落ちそうなくらい敵味方ともに集まっての混戦乱戦もしばしば。二刀開眼もありました!

なお獅子王については逆に、いつもと変わらない明るさ、元気の良さが頼もしく感じていたのですが、やっぱり「驚き」がありました。
とのタッグマッチとか勝てそうにない……。

そして政府組。古今さまは惜しげもなく長い脚をさらしてなお優雅、地蔵行平は純情可憐、それぞれフェミニンな魅力を持つキャラで、とくに地蔵は途中ガラシャに守られているように見えるシーンさえありました。使命を守らねばという意識とともに、それぞれが体現する物語の影響を受け懊悩する二振りの表情が魅力的で、ずっとオペラグラスでアップにして観ていました。そのせいで古今さまの左膝のサポーターも見えました。お二人に限らず、皆様故障のないように、とご祈念申し上げます(パンフレットを読んだら、和田さんが刀剣男士の必需品として折りたたみ式マットレスを地方公演には持ち込むんだと話されていました)。

綺伝パンフ
科白劇と同じものに見えて購入するかどうか迷ったパンフ

今回打刀メインで殺陣に武器の違いによる面白みはあまりないのかなあと思っていたのですが、敵方の武器が多彩で、それぞれにどう抗するか、どう攻略するかという見どころがありよかったです。

明言される敵のねらい

この「綺伝」では、シリーズのクライマックスであった「悲伝」以降、ところどころさりげなく埋め込まれてきた不穏の種が、花を咲かせるまではいかなくとも、一斉にその芽を吹きはじめています。

「慈伝」で描かれた、近侍・山姥切国広の修行への旅立ち。
「維伝」に登場した、男士たちの太刀筋を再現して見せる不気味な遡行軍打刀。政府に目をつけられている、厄介事を押しつけられているという自覚。鶴丸と小烏丸の暗躍。
そして昨年の「天伝」「无伝」を通じ、時代的には過去の人物であるにも関わらず不気味な存在感を示した黒田官兵衛。
政府から三日月宗近の監視を指示されていたはんじんと大千鳥。
「どこの三日月宗近も厄介だ」という大千鳥の台詞の意味。
未来のステ本丸から来た(と思われる)太閤左文字からもたらされた、山姥切国広失踪の知らせ。

それらの中心にある人物は、――黒田官兵衛。

かれの「ジョ伝」での登場は、ごく自然なものに思えました。史実・小田原征伐において、かれは秀吉同様、非常に重要な立役者の一人でした。それが遡行軍の存在を自力で探り当て、その力を知り、信長、秀吉という傑物を前に一度は胸に秘めた野心を呼び醒まされ――ということの成り行きも感情の流れとしては理解できるものでした。結局は
「父にはそんな人智を超える力を借りてまで戦国の世の覇者になってほしくない、人であってほしい」という、その子長政によって野望を阻止される顛末も。

ところが「科白劇」では――当然この「綺伝」でも――黒田孝高として慶長熊本に参集し、大友宗麟の軍師をつとめるかれが、きりしたん大名としても軍師としてもいかにも凡庸なのです。その凡庸さが第一に不自然であり、さらにまた、きりしたんがその信仰のゆえに歴史を変えたいと思うなら、その転換点は慶長熊本ではなく島原の乱であるべきではないかとも、男士ならずとも思わされます。
その辺りには「科白劇」本丸の長義も疑問を持っていましたが、ステ本丸の長義はもっと直截にこの謎に切り込み、それゆえに「科白劇」でははっきりと触れられなかった官兵衛の、そして遡行軍のねらいが、「綺伝」では明確に、官兵衛の口から述べられます。

歴史を物語に変え、物語を歴史に変える。それによって――。

これ、言明されたらされたで却って謎が深まるような理由だったのですが(誰がどっちの味方なのか? みたいな混乱がある)、それはともかくとして、やたら「維伝」以降、誰かが誰かを模倣している意味はわかったような気がします。歴史と物語と、互いに相互を模倣させようという呪術めいた行為なのかなと。
今回「綺伝」では黒田官兵衛がしきりに山姥切国広の台詞(「名前などどうでもいい」「刃以て語らおう」等)を口にして長義を挑発しますし、「維伝」も謎の打刀の太刀筋が三日月宗近を、山姥切国広を、鶴丸国永を思わせる下りがあります。後者については太刀筋がその正体を示しているのかとドキドキしていましたが、なるほど意図して模倣していたのか、と。

物語世界では似ているということにはとても大きな意味があります。
「无伝」で長谷部を襲った人物と、「綺伝」における黒田孝高の服装の一致。服装と言えば、「无伝」ラストに登場した鬼丸国綱と、「悲伝」に登場した鵺と呼ばれるの篭手の類似もひっかかる。「天伝」に出てきた織田の刀の刀剣男士、もどきの声も鵺と呼ばれるの声と同じでした。まだまだこれが答えだ、と言い切れないのがつらいところですが。

関係ないけど、今回獅子王の「小烏丸様の物真似」がすごくレベルアップしています。

最初に書いたようにこの辺りの台詞、初めから「綺伝」の脚本にあったものなのか、それともその後の「天伝」「无伝」を受けて若干アレンジされたものなのか、どっちなんだろうなあと思いながら観ていました。
もちろん構想としては初めからあったでしょうけど、元々「綺伝」では匂わせ程度で「天伝」「无伝」、そしてこの後に来るであろう「陽伝」と徐々にはっきりさせていく予定だったのではないのかなと。ところが上演順が狂ったので「科白劇」ではふれず、今回の「綺伝」でずばっと言わせたのではと。

深まる政府への不審の念

さっき「悲伝」以降の不穏の種と書きましたが、思えば「虚伝」では史実・本能寺の変の主役である織田信長を一切登場させず、ただ皆が
「織田信長とは何者か」を問い、語るだけに終始していましたし、「虚伝 再演」では早々に、
「いくつもの本丸が同じ物語を辿っているか、もしくはステ本丸が何度も同じ物語をめぐっている」という世界観が、わずかな台詞の変更とすべての所作を初演の鏡像とするわかりにくい演出によって提示されていました。
続く「義伝」でははっきりと関ヶ原の戦いをめぐり、小規模ながら時の円環が出現していると三日月宗近が言及し、さらに「外伝」「ジョ伝」ではまた異なる時の円環。そこではとうとう
「過去の自分達に干渉し結末を変える」という禁じ手を、あっさり犯してしまっているステ本丸の男士たち。特に三日月宗近。
「悲伝」の結の目はいわずもがな。

「維伝」「綺伝」は原作ゲームの特命調査が下敷きになっていますが、歴史改変の進みきった時間軸、いわゆる「放棄された世界」では、それこそ何度も何度も同じ物語が繰り返され、入れ代わり立ち代わり様々な本丸の刀剣男士たちがそこに訪れて朧なるその世界の登場人物たちと勝ったり負けたりの戦いを延々と続けています(「維伝」「綺伝」では過去派遣されてきた刀剣男士たちを打ち破った話を朧たちがしていますし、「科白劇」本丸の男士たちは、ステ本丸の慶長熊本にかかわる報告書を読みながら「おれたちのときと同じだ」等と回想します)。

どちらが買っても負けても、どこにも行き着かない時の流れ。正史に影響を与えないよう切り捨てられた、閉じた世界。
戦闘シミュレーターとしての活用、あるいは各本丸の実力を評価する試験場としての活用、特命調査のことをゲームプレイヤーとしてはそう解釈していましたが、もしシリアスな戦いとするならば、そこに繰り返し男士たちを派遣し、戦いを継続させることに何の意味があるのでしょうか。
敵方のねらいよりもさらにわけのわからない、推測し難い時の政府の思惑。

観劇の反省点

あまり情報を入れないようにしようと今回予習しなかったせいで、天正遣欧少年使節の存在意義が今ひとつピンとこなかったなあと。ちゃんと勉強して、あとBlu-ray購入したら何度か見直したい。伊東マンショ役の松村さんは暗殺ヒューマギアの暗殺くんでしたよね?
大友宗麟の独白に対し
「そんなことヨブに言ったら笑われるぞ」と思いながら聞いていたので、信仰に揺らぎがあると糾弾する少年たちの純粋さはとてもよかったし、ラストも
「これではらいそに……」と焦がれるような表情で折り重なって倒れていく図はまるでピエタのようでした。衣装も素晴らしかった。

あと痛恨の反省点。劇場オリジナルグッズであるステンドグラスキーホルダーは売り切れていました。浮かれてホテルでコース料理食べていてはいけなかったのかも。

綺伝会場2
独立型でなくビルの6階だけが会場

余談ながら
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dvd box 観たらめも